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白き影には音もなく
森の別の場所では、白い影がひとりで動いていた。
茂みが揺れた。魔物が飛びかかろうとする。青年は一歩も動かなかった。ただ茂みを一瞥すると、魔物の身体が真っ二つに裂かれた。
「遅い」
青年はあっという間に魔物の裏に回っており、顔色ひとつ変わらない。
また茂みが揺れた。今度は二体同時だった。右から、左から。青年の影が左に移り、あっという間に右にも現れる。両方を同時と思わせるほどのスピードで捌く。例え複数体に囲まれたとしても、彼は普段通りいとも簡単に捌き切る。剣が風を切る音が微かに森に響き、青年の周りは再び静寂が戻る。
それだけだった。
音もなく、迷いもなく。魔物が現れれば影と剣が踊り、次の瞬間には静寂が戻る。ただ、終わらせるべきことを終わらせていく。どれだけ時間が経ったのか分からない。
「…よし」
深呼吸をした青年は、また歩き出す。ただただ魔物を討伐するため。今、それ以外はなにも頭にはなかった。
休むことなくひたすら動いていた青年も、思わず足を止めた。
森の奥から、何かが来る。今まで相手にしてきたものとは、根本から違う気配だった。重く、濁った狂気が空気を変えていく。
青年はその方向を静かに見据えた。
魔物も恐れる影が、勢いよく動き出した。




