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第十三章:アカデミアへの帰還、そして新たな異変の兆候

浄化され始めた「禁忌の地」を後にし、レリア、リュシアン、リオネル、そしてコウの四人は、アカデミアとそれぞれの故郷を目指し、北の国境地帯を南へと引き返していた。帰路は、往路の荒涼とした雰囲気とはわずかに異なっていた。瘴気は薄れ、冷たい風もいくらか和らいでいる。彼らが通り過ぎた「禁忌の森」では、かすかに緑が息を吹き返し始めているのが見て取れた。

「本当に……森が、少しずつ元に戻ってる」

リュシアンが驚きを込めて呟いた。彼の魔力感知も、以前感じたような大地を吸い上げるような歪みはなく、むしろ生命の力が微かに循環し始めているのを感じ取っていた。

コウは、生まれ育った森の変化に目を見張っていた。

「信じられねえ……こんなことが、本当にあり得るのか……」

彼はレリアの銀髪の輝きを思い出し、再び畏敬の念を抱いた。この地に希望が戻ったことを、何よりも早く村の者たちに伝えたいという思いが募る。

数日後、彼らはコウの故郷である小さな村に辿り着いた。村の空気は、彼らが訪れた時よりも明らかに穏やかになっていた。村人たちの表情も、以前のような諦めや沈黙ではなく、かすかな希望が宿っているように見える。

「コウ!無事だったのか!」

村の入口で、心配そうに待っていたコウの父親が、息子の姿を見つけると駆け寄ってきた。コウは、父親に「禁忌の地」での出来事と、レリアたちが成し遂げた浄化について、興奮気味に語り始めた。初めは信じられないといった様子の村人たちも、コウの熱弁と、彼ら自身が感じている村の変化に、次第に希望の光を見出し始める。

「この命の結晶は、一旦アカデミアで保管します。この地の生命力を、無理に引き出すようなことはしません。あくまで、この村と大地が、ゆっくりと本来の姿を取り戻す手助けとなるよう、学園長と相談して、最適な方法を見つけ出します」

リオネルは、村人たちに向けて、丁寧に説明した。光を放つ生命の結晶は、浄化された後も依然として強力な力を秘めており、安易な扱いはできないと判断したのだ。

村人たちは、彼らの言葉を信じ、深く頭を下げた。レリアたちは、コウと村人たちに別れを告げ、再びアカデミアへと旅立った。コウの村は、再び平穏な日常へと戻っていくことだろう。しかし、彼らの心には、レリアの銀髪の輝きと、彼女がもたらした奇跡が深く刻まれた。

アカデミアへの帰還は、英雄の凱旋のようなものだった。学園長は、三人の無事を心から喜び、彼らの報告に真剣に耳を傾けた。特に、カサンドラ教授が「聖女の残滓」を取り込んでいたこと、そしてレリアが「真の聖女の遺産」と共鳴し、新たな覚醒を遂げたことには、驚きを隠せない様子だった。

「カサンドラ教授が……まさか、そこまでの禁忌に手を出していたとは……。そして、レリア君、君の力が、それを上回ったのだな。本当に、ありがとう」

学園長は深々と頭を下げた。フィーナとグレンも駆けつけ、彼らの無事を心から喜んだ。

「レリア先輩!リュシアン!リオネル先輩!無事でよかった!」

「本当にすごかったんだな!禁忌の地を浄化するなんて……!」

彼らの言葉に、リュシアンは少し照れくさそうに笑った。リオネルも、珍しく口元に微かな笑みを浮かべた。

しかし、レリアの心には、かすかな不安の影が残っていた。生命の結晶を浄化した際、確かにカサンドラの幻影は消滅した。だが、彼女が感じた「聖女の残滓」の残り香は、単なる気のせいではないように思えたのだ。

その夜、レリアは自室で静かに瞑想していた。自身の体内に流れる生命の力を感じ取り、禁忌の地で得た「真の聖女の遺産」との共鳴を深めようとする。その時、彼女の心の奥底で、微かな“歪み”が再び脈動するのを感じた。それは、カサンドラ教授の魔力とは異なる、より古く、より深遠な闇の気配。

「これは……カサンドラ教授の残滓……ではない。もっと、根源的な……」

レリアの真紅の髪が、わずかに銀色の光を帯びる。その光は、彼女が感じ取った闇に反応しているようだった。

遠く離れたどこかの場所で、カサンドラ教授の残された意識は、微かな光の粒子となって空間を漂っていた。彼女は、レリアによって計画を打ち砕かれたことへの激しい屈辱と憎悪に震えていた。しかし、その意識は、別の、より古く巨大な闇の存在に引き寄せられていることに、まだ気づいていなかった。

「私は……私はまだ、終わらない……。レリア・エールハルト……」

カサンドラの微かな声が、闇の中に溶けていく。

レリアが感じ取った“歪み”は、カサンドラの個人的な復讐の念を超え、この世界に古くから潜む、より深遠な闇の存在が、今まさに目覚めようとしている予兆だった。聖務院の脅威は去ったが、真の聖女の戦いは、まだ終わりを迎えていなかった。むしろ、それは、世界の根源に迫る、新たな戦いの序章に過ぎなかったのだ。

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