第十章:聖女の光、錬成の終焉へ
レリアが「真の聖女の遺産」と共鳴し、その銀色の髪が圧倒的な光を放つと、周囲の禁忌の守護者たちは苦悶の声を上げ、ひび割れが全身に広がっていった。彼女の純粋な生命の力は、カサンドラによって歪められ、大地と融合させられた存在の根源を揺るがしていた。
「リオネル先輩、リュシアン!あの守護者たちを突破して、残りの増幅器を破壊しましょう!」
レリアは、銀髪を輝かせながら叫んだ。彼女の周囲には、守護者たちが踏み込めないほどの生命の結界が張られているかのようだった。
「分かった!レリア、君が守護者の動きを封じている間に、我々が残りの増幅器を叩く!」
リオネルは、レリアの覚醒した力に確信を得て、即座に指示を出した。彼の漆黒の短髪が、決意を固めた彼の動きに合わせて揺れる。
リュシアンは、魔力感知を研ぎ澄ませ、残された岩柱に設置された二つの魔力増幅器の位置と、そこへと続く最も安全な経路を把握した。カサンドラの魔力は依然として強力だが、レリアの光が守護者の力を削いでいる今が好機だった。
「先輩、あの右手の岩柱の増幅器が近い!守護者が一体、道を塞いでいます!」
リュシアンが叫んだ。彼の指示を受け、リオネルは迷わず動き出した。彼は、レリアの光によって動きが鈍った守護者の隙を突き、俊敏な動きでその横をすり抜ける。彼の放つ浄化魔術が、守護者の体表を削り取りながら、岩柱へと迫った。
レリアは、その間も銀髪を輝かせ、生命の光を放ち続けていた。複数の守護者たちが、彼女の光の結界に阻まれ、近づくことができない。彼らは、苦しそうに唸り声を上げ、その肉体はゆっくりと崩れ始めていた。
リオネルが、一つ目の岩柱の頂上近くにある魔力増幅器へと到達した。彼は、リュシアンの指示で感知した、わずかな魔力の歪みを狙い、渾身の浄化魔術を放った。
「『命の奔流』!」
リオネルの魔術が、増幅器の障壁を貫き、内部で炸裂した。キィィィィン!と甲高い音を立てて、増幅器から黒い煙が立ち上り、大きくひび割れた。そして、鈍い音を立てて、その機能を完全に停止した。
二つ目の増幅器が破壊された瞬間、大地が再び大きく震えた。祭壇の中心にある黒い球体の脈動が、さらに弱まり、そこから伸びる魔力の鎖の輝きも鈍った。カサンドラの魔力も、わずかに揺らいだように見えた。
「あと一つです!正面奥の最も高い岩柱の頂上だ!」
リュシアンが叫んだ。彼の魔力感知が示す通り、最後の増幅器は、これまでのものよりもはるかに強大な魔力で守られていた。
その時、コウがリュシアンの隣で、祭壇の周囲を指差した。
「おい、見てみろ!あの黒い球体の周りの地面が、わずかに盛り上がっている。あそこから、何か出てくるぞ!」
コウの言葉に、リュシアンは魔力感知を集中させる。確かに、祭壇の足元の大地が脈動し、新たな異形が生まれようとしているのが感じられた。カサンドラは、彼らの動きを阻止するため、祭壇そのものから新たな守護者を生み出そうとしているのだ。
「くそっ、キリがない……!」
リュシアンが焦る。彼らが最後の増幅器を破壊する前に、新たな脅威が生まれてしまう。
「リュシアン!ここは私が食い止める!君は、リオネル先輩と最後の増幅器を破壊するんだ!」
レリアは、銀色の髪を激しく輝かせながら、新たな守護者が生まれようとしている場所へと向かった。彼女の全身から放たれる生命の光は、生まれかけの守護者たちを胎動する大地の中で浄化しようとしていた。
「レリア!」
リュシアンは叫んだ。レリアが全ての守護者を抑え込めるわけではない。彼女の体が限界に達してしまう可能性もあった。
「レリアの覚悟に応えるぞ!リュシアン、一気に決める!」
リオネルが叫び、最後の岩柱へと飛翔した。彼の背後から、レリアの銀色の光が、黒い守護者たちを浄化する白い閃光となって放たれている。リュシアンは、リオネルの言葉に頷くと、自身の魔力を最大限に集中させた。
最後の岩柱は、これまでの岩柱とは比べ物にならないほど、禍々しい魔力に満ちていた。その頂上にある増幅器は、祭壇の中心にある黒い球体と直接繋がっているかのように、一層強く脈動している。
「リュシアン、君の魔力感知で、増幅器の核を正確に特定しろ!私は、それを破壊するための最大の術式を組む!」
リオネルが指示を出す。リュシアンは、魔力感知の全てを集中させ、増幅器の内部の複雑な魔力回路を透視した。そして、その最も脆弱な一点を見つけ出した。
「分かりました!先輩、ここです!魔力回路の最も深部に、わずかな歪みがあります!」
リュシアンが叫ぶと同時に、リオネルは渾身の魔術を放った。彼の漆黒の髪が逆立ち、群青色の瞳が激しく輝く。
「『命の裁き』――真理を断つ一撃!」
リオネルの放った浄化の光が、雷鳴のように空間を裂き、最後の増幅器の核を正確に貫いた。
キィィィィィン!!
けたたましい金属音が鳴り響き、岩柱全体が大きく振動した。魔力増幅器から、これまでで最も巨大な黒煙が立ち上り、増幅器は爆発音と共に完全に砕け散った。
三つ全ての魔力増幅器が破壊された瞬間、祭壇の中心にある黒い球体の脈動が、急速に弱まり始めた。そこから大地へと伸びていた鎖も、力を失い、黒い光を失っていく。
「やった……やったぞ!」
リュシアンが歓喜の声を上げる。
その時、祭壇の上空に、カサンドラ教授の幻影が再び現れた。しかし、その姿は以前よりも薄く、怒りと動揺に満ちた表情を浮かべている。
「な、なぜだ……!?この私が……この私が、こんなところで……!」
カサンドラの声は、動揺に震えていた。彼女の銀髪も、以前のような冷たい輝きを失い、乱れている。
「貴方の計画は、もう終わりです、カサンドラ教授!」
レリアが、疲れ果てながらも、銀色の髪を輝かせ、まっすぐにカサンドラを見据えた。彼女の放つ生命の光は、カサンドラの幻影をさらに不安定にさせる。
「まだだ……!まだ終わっていない!私は、この世界の真理を……!」
カサンドラの幻影が、苦しむかのように揺らぐ。祭壇の黒い球体も、急速に収縮を始め、大地から吸い上げた生命力を吐き出すかのように、微かな光を放ち始めた。
「レリア!この隙に、祭壇の中心の球体を浄化するんだ!完全な聖なる結晶が完成する前に!」
リオネルが叫んだ。レリアは頷くと、自身の全ての力を集中させ、祭壇の中心へと向かって、最大の生命の光を放った。
彼女の銀髪から放たれる光が、黒い球体を包み込む。球体は、レリアの純粋な生命の力に触れると、禍々しい黒いオーラを失い、ゆっくりと、しかし確実に、清らかな輝きを放ち始めた。
カサンドラの絶叫が、禁忌の地に響き渡る。
「やめろ……!やめるのだ、聖女よ!その力は、お前には扱いきれない……!」
だが、レリアはひるまなかった。彼女の瞳には、世界の生命を守るという、揺るぎない決意が宿っていた。