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第四部:プロローグ 銀髪の聖女と、再燃する闇

港町ティルナの地下に広がる聖務院の支部が崩壊してから、数ヶ月の月日が流れた。世界は瘴気の脅威から一時的な解放を迎え、エレオス魔術アカデミアもまた、平穏を取り戻し、学生たちの活気で満ち溢れていた。

レリア・エールハルトは、自身の内に目覚めた「真の聖女」の力を深く探求するため、薬草園の奥深くで不朽草の研究と育成に没頭する日々を送っていた。彼女の真紅の髪は、真の聖女の力を解放するたびに月光のように輝く銀色へと変化する。それは、彼女にとって自身の運命の象徴であり、古の聖女たちとの繋がりを実感させるものだった。しかし、力が深まるにつれて、彼女は漠然とした不安も感じ始めていた。まるで、世界のどこかで新たな“歪み”が生まれているかのような、微かな不調和の波動が、常に心の奥底に響いていたのだ。

リュシアンは、親友エリックを失った悲しみを胸に刻みながらも、その無念を晴らすべく魔力感知の訓練に励んでいた。彼の能力は以前にも増して研ぎ澄まされ、世界の魔力の微細な変化をも敏感に捉えるようになっていた。リオネル・ヴァンスは、学園長と共に聖務院の残党に関する情報収集と、来るべき脅威に備えた新たな魔術研究に没頭していた。彼らは、カサンドラ教授が完全に消滅したとは考えていなかった。

そして、その予感は的中する。

ある夜、レリアは薬草園で瞑想中に、突然、激しい頭痛に襲われた。視界が白く染まり、耳鳴りが響く。それは、これまでに感じたことのない、巨大で冷たい魔力の波動だった。その瞬間、レリアの真紅の髪は、夜の闇に映える月のように、まばゆい銀色に輝いた。彼女の意識は、遠く離れた場所へと引きずり込まれる。幻視の中で、彼女が見たのは、深い闇の中に佇む、人影――紛れもなく、カサンドラ教授の姿だった。

しかし、以前とは異なり、カサンドラの周囲には、散りばめられた星々のように無数の光の粒子が浮遊し、彼女の体からは禍々しいオーラが放たれていた。それは、かつて「偽りの聖女」が浄化された際に散った**「聖女の残滓」**。カサンドラは、それを吸収し、自身の力として再構築していたのだ。

カサンドラは、幻視の中でレリアに語りかけた。その声は、かつての嘲りではなく、冷酷なまでの確信に満ちていた。

「見えているか、真の聖女よ。貴様の力は、確かに私を阻んだ。だが、私は消えなかった。この『聖女の残滓』こそが、真の聖女の力を理解するための最後の鍵。そして、私は、貴様が持つ『生命の共鳴』の真の根源を、この手で掴む」

カサンドラの言葉と共に、幻視の中の闇がさらに深まる。彼女の背後には、以前の「聖なる結晶」とは異なる、黒く淀んだ結晶体が、脈動しているのが見えた。

「これは始まりだ、レリア・エールハルト。真の聖女の力は、私こそが完成させるべきもの。貴様には、その器がない」

幻視は唐突に途切れ、レリアは激しい動悸と共に意識を取り戻した。髪は再び真紅に戻っていたが、その場に立ち尽くす彼女の体は、冷たい汗にまみれていた。

同じ頃、リュシアンもまた、胸騒ぎを感じていた。彼の魔力感知が、今まで経験したことのないほど広範囲で、巨大な魔力の「歪み」を捉えていたのだ。その中心は、遠く離れた北の国境地帯。そして、その魔力には、カサンドラ教授の特異な魔力の痕跡が混じっていた。

「まさか……カサンドラ教授が……」

リュシアンの顔に緊張が走る。リオネルの部屋でも、机の上の地図が風もないのに揺れ、北の国境地帯を示す箇所に、赤いインクで書かれた小さな文字が浮かび上がっていた。それは、聖務院の古文書に記された、ある**「禁忌の地」**の名称だった。

静寂は破られた。新たな脅威が、再び世界を覆い始めようとしていた。レリアの銀髪が示す「真の聖女」の力、そしてカサンドラ教授が手に入れた「聖女の残滓」の力が交錯するとき、世界の運命は再び大きく動き出す。彼らの新しい戦いが、今、幕を開ける。


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