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閑話休題:理解の糸口

アカデミアの図書館の閲覧室。リュシアンは、フィーナとグレンと共に、休憩時間に偶然目にした学園の広報誌を囲んでいた。そこには、数年前の学園祭の様子が写されており、隅の方に小さくレリアの姿があった。彼女の周りには他の生徒の輪があるものの、レリア自身は少し離れて、どこか寂しそうに見えた。

「レリア先輩、この時も一人でいたんだ……」

フィーナが広報誌を指しながら呟く。先日の聖務院との一件以来、レリアのことが気になって仕方がないリュシアンは、彼女についてもっと知りたいと友人たちに話していたのだ。

「学園に入学してからずっと、あんまり他の生徒と絡んでるのを見たことがないんだよな。いつも薬草園にいるか、実家に帰ってるって聞いてたし」

グレンが首を傾げる。彼らもまた、レリアの秘めた力と、それに反するような孤独な印象に疑問を感じていた。

「どうしてだろう?あんなに優しい人なのに……」

リュシアンは、レリアのどこか影のある表情が気になっていた。彼女が魔力を持たないことは学園内でも知られていたが、それが原因で友人ができないものなのだろうか、と純粋に疑問に思っていた。

「まずは、リオネル先輩に聞いてみようか?先輩なら、何か知ってるかもしれない」

グレンが提案し、三人はリオネルが研究している部屋へと向かった。リオネルは、相変わらず黙々と資料を広げていた。

「リオネル先輩、少しお時間よろしいでしょうか?」

リュシアンが声をかけると、リオネルは顔を上げて彼らを見た。リュシアンは、レリアに友人が少ないように見えること、そしてその理由が知りたいと思っていることを正直に打ち明けた。

リオネルは、彼らの問いに、少し考えてから静かに答えた。

「レリアに友人がいない理由か……。すまないが、私にも詳しいことは分からない。ただ、私にも親しい友人と呼べる存在はいない。だから、その気持ちは、なんとなく理解できる」

リオネルの意外な告白に、リュシアンたちは目を見開いた。アカデミアで尊敬され、多くの学生から慕われているリオネルにも、親しい友人がいないとは、想像もしていなかった。

「私は研究に没頭するあまり、他者との交流を疎かにしてきたのかもしれない。だから、レリアがなぜ友人が少ないのか、その明確な理由は答えられない。だが、孤独であることの感情は、分からなくもない」

リオネルの言葉は、普段の彼からは想像できないほど率直で、リュシアンたちは、彼への見方を新たにした。リオネルもまた、それぞれの戦いを一人で背負ってきたのだ。

フィーナが、以前読んだ学園新聞の切り抜きを思い出した。

「そういえば、昔の学園新聞に『聖女の血を引くレリア・エールハルト、魔力測定で特異な結果』って記事があったわ!きっと、魔力がないことが公になってたんだと思う」

記事には、幼いレリアが困惑した表情で魔力測定器の前に立つ写真が添えられていた、とフィーナは説明した。それを聞いたリュシアンは、胸が締め付けられる思いだった。

「きっと、この頃から、レリア先輩は好奇の目で見られてたんだ……。聖女の家系なのに、魔力がないって」

グレンは、学園の広報誌に掲載されていた、レリアの祖母へのインタビュー記事を思い出した。

「前に、レリア先輩のおばあさんのインタビュー記事があったな。『孫は魔力に依らない、生命との共鳴を学ぶことを望みます。どうか、既存の魔術教育に縛られず、薬草学を通じてその資質を伸ばすことをご配慮ください』って書いてあった気がする」

その言葉に、三人は顔を見合わせた。

「レリア先輩のおばあさんは、最初からレリア先輩が『真の聖女』になることを知っていたんだ!」

フィーナが驚きの声を上げる。リュシアンは、祖母の深い愛情と、レリアを守ろうとする強い意志を感じ取った。

「だからこそ、周りとは違う道を歩まされたんだ。聖務院から目をつけられないように、あえて目立たないように、魔術教育から距離を置いていたのかもしれない……」

リュシアンの推測に、フィーナとグレンは深く頷いた。レリアが孤独だったのは、彼女が望んだわけではなく、彼女を守るため、そして「真の聖女」としての力を育むために、周囲がそうせざるを得なかった状況があったのだ。

「レリア先輩は、これまでずっと、一人で頑張ってきたんだ……」

リュシアンの心に、レリアへの新たな尊敬と、深い共感が湧き上がった。彼の目の前に、これまで一人で薬草園で黙々と作業していたレリアの姿が鮮明に浮かんだ。その姿は、決して孤独なものではなく、強い信念に満ちたものだったのだ。

夕暮れ時、リュシアンが研究室のテラスで薬草の手入れをしているレリアの元を訪れた。

「レリア先輩……少し、話してもいいですか?」

レリアは、振り返り、優しい目でリュシアンを見つめた。リュシアンは、今日知ったこと、そして彼女のことをもっと理解したいと思っていることを話した。魔力がないことへの周囲の視線、祖母の願い、そして、一人で道を歩んできたこと。

レリアは、リュシアンの言葉に、静かに耳を傾けた。彼女の瞳には、ほんのわずかだけ、過去の寂しさが滲んだように見えたが、すぐに消えた。

「リュシアン、ありがとう。私のことを、そんなに考えてくれていたなんて」

レリアは、そう言うと、不朽草の苗をそっと撫でた。

「確かに、これまでは、私のことを本当に理解してくれる人は少ないと感じていたわ。魔力がないこと、周りとは違うこと……でも、それは、私にとっては大切なことだった。祖母が教えてくれた、この不朽草の命の繋がりこそが、私の全てだから」

レリアは、リュシアンの目を真っ直ぐに見つめ、穏やかに微笑んだ。

「親友と呼べる人は、これまでいなかったかもしれない。でも、リュシアンやリオネル先輩のような、少なくとも私のことを理解してくれる人がいれば、それでいいの。あなたは、私のことを理解してくれる、大切な人だから」

その言葉は、リュシアンの心に温かく響いた。レリアの言葉には、過去の孤独を超え、今、確かな絆を見つけた者の強さと、清々しいまでの前向きな光が宿っていた。


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