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第十章:地下の聖務院と、古の幻影

灯台の地下から噴き出す禍々しい鎖の猛攻に、リオネルは苦戦を強いられていた。彼の放つ浄化の魔術は、鎖を一時的に食い止めるものの、その数は無限かと思えるほど次々と現れ、リオネルの魔力を削っていく。

「リュシアン!レリア!早く術式の根源を!」

リオネルの切羽詰まった声が響く。彼は自身の周囲に強力な防御結界を張り巡らせ、迫り来る鎖から二人を守りながら、教団員たちの魔術攻撃も同時に防いでいた。

リュシアンは、灯台の地下から溢れ出す魔力の源を探るべく、目を閉じて魔力感知を集中させた。地下深くから、太い魔力の奔流を感じる。それは、複雑に入り組んだ地下空間を巡り、鎖を動かす動力となっているようだった。そして、その魔力の中心には、複数の強力な魔術師の存在と、まるで巨大な心臓が脈打つかのような、淀んだ聖なる魔力の塊を感じ取った。

「見つけました!灯台の地下深く、巨大な魔力炉があります!そこに、術式を操る魔術師たちがいるはずです!」

リュシアンの報告に、レリアは素早く反応した。

「リオネル!私とリュシアンが地下へ潜ります!貴方はここで持ちこたえて!」

「分かった!だが、無茶はするな!リュシアン、レリアを頼む!」

リオネルの言葉に頷き、レリアは灯台の破壊された扉の隙間から、リュシアンと共に地下へと飛び込んだ。

地下へと続く螺旋階段は、湿った空気と古びた石の匂いが立ち込めていた。階段を降りるごとに、瘴気の淀みが濃くなり、リュシアンの魔力感知が激しく警鐘を鳴らす。階段の先は、広大な地下空間へと繋がっていた。

そこは、まさに「深淵の聖務院」と呼ぶにふさわしい場所だった。巨大な円形の空間の中央には、禍々しい紋様が刻まれた巨大な魔力炉が鎮座し、その周囲には黒いローブをまとった聖務院の魔術師たちが、一斉に術式を詠唱していた。彼らの魔力は、魔力炉から供給される瘴気の魔力によって増幅され、鎖となって地上へと送り出されているようだった。

「やはり、ここが聖務院の支部か……!」

リュシアンは、魔術師たちの数とその魔力の強大さに、息を呑んだ。しかし、彼らの間に、リオネルが灯台の外で対峙していたローブの男――聖務院の幹部らしき人物の姿はなかった。

「レリア先輩、あの魔力炉が術式の根源です!でも、周囲に聖務院の魔術師がたくさんいて……」

リュシアンが警戒しながらレリアに囁く。その時、魔術師の一人が、二人の存在に気づき、素早く杖を構えた。

「何者だ!」

魔術師が声を上げると、他の魔術師たちも一斉に二人に視線を向け、魔術を放とうと構えた。

「リュシアン、私に考えがあるわ!」

レリアは、リュシアンの袖を引くと、ある場所に視線を向けた。それは、地下空間の奥、かつて泉で見た石碑と同じ紋様がかすかに刻まれた、古びた壁だった。

「カサンドラ教授の古文書に書いてあったわ。『聖女の血脈が刻まれし壁は、古の聖女の記憶を宿す』と!きっと、祖母がこの壁に何かを遺してくれているはずよ!」

レリアはリュシアンにそう告げると、聖務院の魔術師たちが術式を詠唱する中、迷わずその壁へと駆け出した。リュシアンは、レリアを守るべく、聖務院の魔術師たちに向けて自身の魔力弾を放ち、その進行を阻んだ。彼の魔力はまだ未熟だが、その一撃は魔術師たちを怯ませるには十分だった。

レリアが壁に触れると、壁に刻まれた紋様がかすかに光を放った。レリアの掌から純粋な生命の魔力が壁に流れ込むと、壁がゆっくりと形を変え始めた。壁の表面に、まるで幻影のように、かつての聖女たちの姿が次々と浮かび上がっては消えていく。それは、聖務院の支配と戦い、この泉と血脈を守り抜こうとした、古の聖女たちの記憶だった。

そして、最後に、レリアの祖母の姿が浮かび上がった。祖母は、慈愛に満ちた表情でレリアを見つめると、幻影の声で語りかけた。

「レリア……貴女は、決して一人ではない。聖女の真の力は、魔力に依らぬ生命の輝き。不朽草が、その力を最大限に引き出すだろう。そして、この泉の底には、古き聖女たちが聖務院の術式に対抗するために遺した、もう一つの『遺産』がある。それは、聖務院の真の総帥の居場所を指し示す、『生命の道標』……」

祖母のメッセージを全て受け取ったレリアの体から、聖なる光が溢れ出した。それは、魔力とは異なる、純粋な生命の輝きだった。レリアの周囲の植物が、枯れていたにも関わらず、一瞬で生き生きとよみがえっていく。

その光に、聖務院の魔術師たちは怯んだ。彼らが操る瘴気の魔術が、レリアの聖なる光によってかき消されていく。

「な、なんだ、この力は!?魔力を持たぬ聖女だと聞いたはず……!」

魔術師の一人が動揺して叫んだ。

「リュシアン!泉の底に、聖務院の総帥の居場所を指し示す『生命の道標』があるって、祖母が教えてくれたわ!」

レリアは、自身の体に宿った新たな力を感じながら、リュシアンに叫んだ。その言葉に、リュシアンの魔力感知が、泉の底にある、以前は気づかなかった微かな魔力の反応を捉えた。

その時、地下空間の奥から、再び強力な魔力の波動が放たれた。それは、地上の灯台でリオネルと対峙していた聖務院の幹部の魔力だった。彼は、自身の分身を送り込み、直接地下へと降りてきたのだ。

「これ以上、我々の目論見を邪魔立てはさせんぞ、真の聖女よ……!」

幹部の声が響き渡り、彼の手から強力な瘴気の魔術が放たれた。レリアとリュシアンは、その魔術の直撃を受けそうになる。

しかし、レリアはひるまなかった。祖母のメッセージが、彼女の心に勇気を与えていた。彼女は、自身に宿った「真の聖女」の力を信じ、リュシアンと共に、聖務院の闇を打ち破るべく、泉の底へと目を向けた。

聖務院の地下支部での戦いは、今、始まったばかりだった。

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