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第四章:聖務院の追跡者と、レリアの故郷へ

学園での符文事件から数日後。「生命魔術研究所」は、学園長とカサンドラ教授の全面的な協力を得て、対「深淵の聖務院」の拠点へと機能を強化していた。リオネルは、聖務院の禁忌の術式に対抗するため、「命の源流」が生み出す清浄な魔力を応用した新たな防御結界の構築に取り組んでいた。レリアは、カサンドラ教授と共に古文書のさらなる解析を進めていた。特に、彼女の祖母が残した薬草学の知識と、古文書に記された聖女の血筋に関する記述の関連性を探っていた。

「教授、この『不朽草』の記述、古文書にもありました。でも、ここに書かれているのは、ただ生命力が強いというだけでなく、特定の波長の魔力を吸収し、浄化する力を持つ、と……」

レリアが、自身が研究してきた「不朽草」の特性と、古文書の記述の合致に気づき、驚きの声を上げた。カサンドラ教授は頷く。

「その通りです。聖務院の記述には、聖女の力が、この『不朽草』の力を借りることで、瘴気を鎮めてきたと記されています。しかし、それは、聖務院が聖女の力を制御し、利用するための『道具』として、不朽草の力を歪めていた可能性が高い」

カサンドラ教授の言葉は、レリアの心に深い疑問を投げかけた。優しかった祖母が、レリアに「不朽草」について教えてくれたのは、聖務院の思惑から彼女を守るためだったのか、それとも……。祖母の真の意図を知りたい。レリアの胸に、その思いが強く宿った。

その時、リオネルの元に、学園の情報網から緊急の報告が入った。

「リオネル先輩!町の郊外に設置されていた『遠隔増幅符文』が、活性化しました!そして、その魔力の流れが、レリア先輩の故郷の方向へと向かっています!」

リュシアンが、焦った声で報告する。彼の手に握られた羊皮紙には、符文から伸びる魔力の経路が、はっきりと示されていた。そして、その経路を辿るリュシアンの魔力感知は、微かながらも、符文の魔力と共鳴する、ある特定の人物の魔力反応を捉えていた。それは、リュシアンが知る限り、学園にいるはずのない、彼の親友エリックの魔力だった。

(まさか……エリックが、本当に……?)

リュシアンの心臓が、ドクリと大きく鳴った。学園が絶望の波動に包まれた時、エリックだけが平静を保っていたこと。その時のエリックの体から感じた、符文の精神干渉を「遮断」するような奇妙な波動。その全てが、今、リュシアンの頭の中で繋がり始めていた。エリックが、聖務院のスパイなのではないかという、最悪の可能性が。

「レリア先輩の故郷……」

レリアが呻くように呟く。そこは、聖女の血筋が代々受け継がれてきた場所。そして、レリアの両親が最後に旅立った場所でもある。

「聖務院が、レリアの故郷を狙っているのは間違いない。そこには、彼らが隠してきた、聖女のルーツにまつわる何かが隠されているはずだ」

リオネルの表情が、これまでにないほど険しくなった。学園の結界は一時的に強化できるが、外への大規模な魔力転移は難しい。

「私が行きます!」

レリアが、決然とした声で言った。彼女の瞳には、恐れではなく、故郷を、そして祖母の真意を確かめたいという強い決意が宿っていた。

「危険だ、レリア!聖務院の罠かもしれない!」

リオネルがレリアを止めようとする。しかし、レリアは首を振った。

「分かっています。でも、私の故郷です。そして、祖母が私に薬草学を教えてくれた理由、そして祖母が何を考えていたのか、どうしても知りたいんです。この『不朽草』も、祖母が私に残してくれたもの……きっと、何か意味があるはずです」

レリアの言葉に、カサンドラ教授が静かに頷いた。

「聖務院は、聖女の力を支配しようとする者たちです。レリア様、貴女の魔力を持たない特性こそが、彼らの目論見を打ち砕く鍵になるかもしれません。聖務院の教義では、聖女は魔力を持つ者であるとされていますから」

カサンドラ教授の言葉は、レリアに勇気を与えた。彼女は、自身の「魔力ゼロ」という特性が、聖務院の支配から自由になるための、唯一の強みだと感じ始めていた。

「僕も行きます!」

リュシアンが、決意に満ちた声で進み出た。彼の心には、エリックへの疑念と、裏切られたかもしれないという苦しみが渦巻いている。しかし、それを直接確かめたいという思いと、レリアを守りたいという純粋な気持ちが、彼を突き動かしていた。

「僕の魔力感知があれば、符文の魔力的な流れを辿り、聖務院の配置や罠を察知できるかもしれません。エリックの魔力反応も、追える可能性があります」

リュシアンの言葉に、リオネルは深く頷いた。リュシアンの才能は、この任務において不可欠だった。

「分かった。リュシアン、君は私とレリアの護衛として同行する。ただし、私の指示を厳守しろ。レリア、君は自身の安全を最優先に。カサンドラ教授、学園長、留守を頼みます」

リオネルは、学園長とカサンドラ教授に視線を向けた。二人は頷き、リオネルたちの決断を静かに見送った。

こうして、リオネル、レリア、リュシアンの三人は、聖務院の追跡をかわし、レリアの故郷へと旅立つことになった。その道のりには、聖務院の隠された真実と、レリアのルーツにまつわる秘密、そしてリュシアンの親友エリックの裏切りという、重い事実が待ち受けていることを、彼らはまだ知らないままだった。特にリュシアンは、エリックが聖務院と繋がっているという最悪の可能性に怯えながらも、その真実を自分の目で確かめるため、故郷へと続く道を歩み始めた。

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