第五章:それぞれの未来、そして新たな絆
瘴気増幅の符文が破壊されたことで、旧校舎に満ちていた瘴気は急速に薄れていった。ジェラルド教授と彼の信奉者たちは、符文の破壊と、レリアの予想外の知識に動揺し、リオネルの反撃によってあっけなく拘束された。
ジェラルド教授は、逮捕される瞬間まで「聖女の教えこそが全てだ」と叫び続けていたが、彼が作り出した「変異瘴気」の危険性と、それを浄化したレリアとリオネルの力は、もはや誰も否定できない事実だった。彼は、学園の最高顧問の座を剥奪され、かつて自分が批判した禁忌の魔術師たちが収容される、最奥の塔へと送られることになった。
学園に仕掛けられた符文の騒動は、すぐに収束し、学園全体に安堵の空気が戻った。この事件は、世界が瘴気の脅威から解放されたとはいえ、新たなシステムを悪用しようとする者たちが存在することを、学園に、そして世界に知らしめる結果となった。同時に、生命魔術研究所の重要性と、リオネルとレリアの存在が、改めて強調された。
数日後、レリアはリュシアンと共に、学園の外壁に駆けつけた。リュシアンは、符文が刻まれていた場所を、熱心に修復している。
「レリア先輩!僕、本当に役立たずでごめんなさい!もっと強くなってみせます!」
リュシアンは顔を赤くして言う。彼は、旧校舎での戦いに参加できなかったことを悔やんでいるようだった。
「そんなことないわ。リュシアンが符文の波長を正確に感知してくれたから、私たちは犯人の居場所を特定できたのよ。それに、万が一の学園の守りも、あなたにしかできない大切な役目だったわ」
レリアは優しく励ます。リュシアンの真っ直ぐな向上心は、彼女にとって、未来への希望そのものだった。
「僕、リオネル先輩とレリア先輩みたいに、誰かの役に立てる魔術師になりたいです!だから、これからも研究所に通ってもいいですか!?」
リュシアンが熱心に訴えかけると、レリアは笑顔で頷いた。
「もちろんよ!いつでも歓迎するわ。あなたが来てくれると、リオネル先輩も私も、きっと助かることがあるから」
リュシアンは満面の笑みで「やったー!」と叫び、再び外壁の修復に戻っていった。
生命魔術研究所では、リオネルがレリアの植物学の知識に、これまで以上に深く敬意を払うようになった。彼は、レリアが「無機物に残る微細な魔力の痕跡を感知する能力」をさらに伸ばせるよう、自身の研究の一部を割いて協力し始めた。そして、レリアもまた、リオネルの理論的な思考と、彼の持つ圧倒的な魔力の制御能力に、さらなる学びを見出していた。
「レリア、この植物に、瘴気浄化の触媒としての新たな可能性を見出した。だが、まだ解析が必要だ。貴様の協力が不可欠だ」
リオネルが珍しく、率直に協力を求めてくる。レリアは笑顔で頷いた。
「ええ、喜んで。先輩の研究の役に立てるなら、いつでも」
彼らはもはや、互いの欠点を補い合うだけの関係ではない。異なる才能が混ざり合い、新たな化学反応を生み出し、無限の可能性を秘めた唯一無二の存在となっていた。
レリアは、十六歳の春、世界を救う大魔術師の相棒として、そして「生命の聖女」として、新たな一歩を踏み出した。そして、その隣には、彼女の力を誰よりも信じ、共に歩むリオネルがいた。