『狙われた声』
翌朝、教室のざわめきは異様だった。
誰もがスマホを手に、あるひとつのアカウントを開いていた。
《みらいちゃん(13)》——
昨夜、“三浦浩一事件”について意見を投稿し、数十万のリツイートを得た中学生。
その言葉は、「狂気じみた正義」に冷や水を浴びせた。
そして今、彼女の通知欄は、地獄に変わっていた。
「偽善者ぶるなガキが」
「お前、三浦の身内? 加害者側かよ」
「こんなガキが正論とか、調子乗んな」
やがて、それはただの中傷ではなく——
個人攻撃へと変わっていった。
—
昼休み、彼女の机に貼り紙があった。
《次はおまえが死ね》
マジックの黒が、インクを滲ませていた。
笑っている子はいない。だが、止める子もいなかった。
スマホから、ニュースが流れる。
「SNSで正論を投稿した女子中学生に対し、殺害予告や晒し行為が発生——」
「“正しすぎる言葉は、時に刃になる”と識者は指摘」
教師は曖昧に苦笑し、「大人の問題に首を突っ込むからだ」と呟いた。
それを聞いた彼女は、立ち尽くしたまま、口を開いた。
「……じゃあ、黙って見てろってことですか?」
—
夜、彼女のアカウントは沈黙した。
最後に、一行だけ、こうつぶやかれていた。
『正義が、正しさより“強さ”で決まるなら、
それってただのいじめじゃん。』