第7話 王命でも逆らいま―― せん。はい、無理ですわ。
はい、エリーゼです。
卒業式がスキャンダル劇場と化した日。大人たちの会議に私たち学生(?)はお呼びでないらしく、話し合いが終わるとすぐに「退場ね」と促されました。うんうん、わかってますよ。ここからは保護者タイム。私たち若造は口出し無用ってやつです。
……まあ、でもウイリアム様は残られましたけどね。学生じゃないし、大人代表ってことでしょう。しかもあの人、先ほどまで浮気された被害者ヅラしてたのに、なんかもうにこにこしてますけど? え? もしかして、落ち込んでたのって演技? イケメンの思考ってほんと謎です。
そんなこんなで、私は王都にあるバンダーム家の屋敷へ戻り、自室でようやくひと息つきました。ふかふかのベッドにダイブして、ぐでーっとしてると、夕食後に父からお呼びがかかりました。
「エリーゼ、ちょっと書斎に来なさい」
なんか嫌な予感しかしない。だって父の書斎って、基本、人生の重要な話しかしない場所なんですよ。たとえば「結婚相手が決まった」とか「婚約破棄されたのは知ってる」とか、あるいは――
「……ウイリアム王子から、結婚の申し込みが来ている」
ほら来た。
思わず、椅子からずり落ちそうになりました。というか、実際ちょっと滑りました。父はその様子を見て、なぜか苦笑い。いや、笑ってる場合ですか!?
「断れますか?」
私は勇気を振り絞って聞いてみました。が、父の返答は、はい予想通り。
「陛下から直接のお言葉だ。無理だろう」
うわーお。なんという王家パワー。貴族の令嬢に自由恋愛なんてなかった。知ってたけど改めてつらい。
でも父は続けます。今度はすっごく嬉しそうな顔で。
「だがな、条件は良いぞ。ウイリアム王子は公爵に叙爵され、我が家に婿入り。つまり、パンダーム家は新たに公爵家になる。そして領地は倍増、アルフォート王国からの違約金も入る。これで財政も立て直せる」
はい、政治の話ですね。国家レベルのメリットですね。わかります。わかりますけど、ねぇ?
「それに、ウイリアム殿下が来ても、私はしばらく政務をしているよ。だから、安心してゆっくりと仕事を覚えていくと良い」
……え? 待って。父、今すっごく大事なことをさらっと言わなかった?
ちょっと、いきなり家督継げとかはなく、しばらくは、のんびりできるわけですね。嬉しいです。
まとめると、えーっと、つまり私は―― 「婚約破棄されたと思ったら、王子と結婚する流れになって、ついでに公爵夫人になるってことですか?」
ちょっと待って、情報量。
たしかに私は、ちょっとした失恋で落ち込むタイプじゃありません。人生、何が起きるかわからないって信条です。でも、さすがにこれは、ジェットコースター過ぎません?
ま、でも。
ここで私が「嫌です!」って言ったところで、世界は変わらない。ならば――
「いいでしょう。やってやりますよ。どうせなら、とびっきり華麗に!」
はい、エリーゼです。人生のステージ、また一段アップした気がします。こうなったら、王子様との結婚だって、バンダーム家の公爵化だって、ぜーんぶ引き受けてやりますとも!
泣いてる暇なんてありません。だって、私の新しい物語は、まだ始まったばかりなんですから!