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第5話 セザンヌ姫から見たウイリアム王子とエリーゼ嬢

セザンヌ姫視点

(エリーゼとウイリアム王子について)


 ルマンド王国の王城、その一室で、私はひどく緊張していた。

 胸の中で手を組み、そっと指を絡める。震えを抑えきれない。

 それも当然だった。私は――隣国アルフォート王国の第四王女でありながら、この国の貴族との間に子を宿してしまったのだ。


 それでも、私は後悔していなかった。

 レンブランド様を、心から愛してしまったのだから。

 たとえどんなに責められようと、私は彼と共に生きる道を選んだのだ。


 けれど――

 あの会議室で、私は一人の少女に出会った。


 エリーゼ・リヴィエール。

 レンブランド様の元婚約者であり、私たちの関係の被害者とも言える彼女。

 本来なら、私たちを責めても当然だった。恨み言の一つや二つ、浴びせられても仕方ない立場だった。


 けれど彼女は、違った。


 ――「お幸せに、って言っておきます!」


 その明るい声が、今でも耳に残っている。

 眩しかった。ひどく、眩しかった。

 涙を浮かべて感謝を述べたのは、私の方だった。


 エリーゼ様。

 あなたは、どうしてあんなにもまっすぐに笑えるのですか?

 裏切られ、傷つき、未来を奪われたというのに……どうして。


 私は、自分を恥じた。

 レンブランド様を愛してしまったことを後悔はしない。

 けれど、誰かの大切なものを奪った痛みを、私はあのとき初めて真正面から突きつけられたのだ。


   ……そして、もう一人。

 その場にいた人物のことも、私は忘れられない。


 ウイリアム王子。

 ルマンド王国の第三王子。

 金色の髪に、明るい笑み。

 ふわふわとした雰囲気をまといながら、けれど彼の言葉は誠実だった。


 ――「セザンヌが幸せなら、それでいい」


 どれほど辛かっただろう。

 彼は私の婚約者だったのに。

 にもかかわらず、私を責めることなく、許してくれた。


 優しすぎる。

 優しすぎて、胸が痛かった。


 ウイリアム王子が、エリーゼ様に向けた言葉も、私は聞き逃さなかった。


 ――「ねえ、エリーゼ。君みたいな子、嫌いじゃないよ」


 ……ああ、王子。

 きっと、あなたはまだ、心に深い傷を抱えたままなのですね。

 それでも、誰かを思いやることをやめない――そんなあなたの優しさに、私は胸が締めつけられるようだった。


   私は思う。


 きっと、エリーゼ様とウイリアム王子は、似ているのだ。

 強がりで、でも本当はとても繊細で。

 誰かを傷つけないように、必死で笑っている。


 もしも――

 もしも、二人が出会うタイミングが違っていたなら。

 違う運命の糸が結ばれていたなら。

 もしかしたら、誰よりも強く、支え合う二人になっていたのかもしれない。


 そんな想像をしてしまう自分が、少しだけ哀しかった。


 


 それでも。

 私は、彼女たちの未来を願いたい。


 エリーゼ様。

 どうか、あなたが歩むこれからの道に、たくさんの光がありますように。

 そしてウイリアム王子。

 どうか、あなたが本当に心から笑える日が訪れますように。


   私は、自分の選んだ道を歩んでいく。

 レンブランド様と共に、生まれてくる子どもと共に。


 エリーゼ様。ウイリアム王子。

 あなたたちのように、私もまた、過去を乗り越えて、新しい未来へ進みたいのです。


 ――王家と貴族たちの、少しほろ苦い卒業式の記憶。

 それはきっと、いつか、皆にとって優しい思い出に変わると信じて。

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