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わたし婚約破棄されました!ルマンド王国魔法学院の卒業式で婚約破棄されたエリーゼ・バンダームは、なぜか?イケメンきらきら王子に告白される?え?どういうことですの?  作者: 山田 バルス
第二章 エリーゼ、結婚生活編

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第10話 エリーゼと公爵家製糸ファクトリー

◆絹の夢、わたしたちの手で◆

【群像劇:公爵家製糸ファクトリー】


絹糸のように白く繊細な煙が、工場の高い煙突から、すうっと空へと立ちのぼっていた。王都から馬車で数時間、のどかな丘の上に建つその工場には、毎朝決まった時間に少女たちが集まってくる。


制服は濃紺の作業服。胸元には名札。魔力保護布の帽子。──それは、彼女たちにとって誇りのしるしだった。


 


■1 ミナ=クロフォード(元侯爵令嬢)


「まさか、あたしが働くことになるなんてね……」


ミナは、ぱさりと制服の袖を払ってため息をついた。父は破産した侯爵。母はすでに他界。兄も行方知れず。王都の屋敷は競売にかけられ、今や彼女に残されたのは“クロフォード家の名”だけだった。


けれど、あの広報会見で見た“エリーゼ公爵夫人”の笑顔が──自分を救った。


「“お嬢様”じゃなくても、ちゃんと働ける場所があるんだって、思えたんだ」


ミナは小さくつぶやいて、機械に向き直る。繭から引き出す絹糸は、思いのほか細くて、少しでも力を入れれば切れてしまう。でも。


「ほら……わたしにも、できたじゃない」


たとえ過去を失っても。未来は、この手で紡げる。


 


■2 ソフィア(村の娘)


「うわっ、また切れた~!」


とっくに仕事が終わっているのに、まだ練習を続けている少女がいた。赤毛を三つ編みにして、機械の前で糸と格闘しているソフィア。彼女は、周辺の農村から唯一応募してきた村娘だった。


「ソフィア、今日はもういいよ。先生も帰ったし」


「でもっ、もっと上手になりたいのっ!」


隣にいたミナが、少しだけ目を細めた。


「そんなに頑張って、どうするの?」


「……家族のため、かな」


ソフィアはにっこり笑った。父は病弱で、母は働きすぎて倒れがち。弟や妹たちを食べさせるため、自分が稼がなきゃって、ずっと思ってた。


「ここに来て、糸を引くのが楽しいって、初めて思えたの。だから、もっと上手になりたいんだ。私、ちゃんと稼げる人になりたいの!」


──そのまっすぐな言葉に、ミナは息をのんだ。


「……そっか。じゃあ、わたしが教える。あんた、手の動き速すぎるのよ。もっと、リズムを意識して」


「えっ、ほんと? ありがとうミナ先輩!」


「“先輩”はやめて。くすぐったい」


笑い合う二人。糸が絡まり合うように、心も少しずつ近づいていく。


 


■3 カティア=バルド(元軍人の娘)


「昼休み、ストレッチするわよ! 全員、広場に集合!」


「ええっ、またですかー!?」


屈強な腕と、キリッとした黒髪ポニーテール。カティアは元軍人の父を持ち、自身も剣術訓練を受けて育った。けれど、兄が戦死し、母の看病が必要になってしまった。


「戦場には出られなくても……私だって、社会の役に立ちたいんだから!」


体力も根性も抜群のカティアは、工場で“糸車メンテナンス班長”を任されている。


「しっかり体を鍛えなきゃ、将来肩こりでリタイアするわよ!」


「えええ~~(涙)」


カティアの号令に悲鳴を上げつつ、みんな広場に集合する。


ソフィアがころころ笑いながら「腹筋割れるかもー」と転がり、ミナは「汗かくの嫌……でも気持ちいいかも」と呟いた。


 


■4 ルネ=クラリス(貴族のふりをしていた少女)


ある日、新人研修で一人の少女がぽつんと立っていた。


茶色い瞳を持つ地味な子。でも、話すととても丁寧で、語彙も完璧だった。


「あなた、学院出てるの?」


「いえ……本当は平民です。でも、貴族のふりをして働かないと、妹を学校に通わせられないから……」


秘密を打ち明けたルネは、不安そうに視線を落とした。


けれど、ミナがふっと笑って言った。


「貴族か平民かなんて、ここじゃ関係ないわ。だって、ここは“公爵家ファクトリー”よ。エリーゼ様の理念、聞いたでしょ?」


──夢を、諦めないで。


その言葉に、ルネの目からぽろりと涙が落ちた。


 


■5 そして──エリーゼ公爵夫人


「ふふふ、みんな仲良くしてるかなあ~って、こっそり見に来ましたー!」


エリーゼは、白いパラソルをくるくる回しながら、工場の丘に立って少女たちの姿を見下ろしていた。


「きらきらしてる……ほんとに」


その横で、ウイリアム殿下が満足げに言う。


「絹を紡ぐように、未来も紡ぐ。素晴らしいことだね」


「うん。あの子たちの糸で、この国の未来が織られていく……そんな気がするんです」


──貴族の娘も、村の少女も、夢を隠した子も。


ここでは皆、“同じ制服”を着ている。


一緒に笑って、泣いて、糸を引いて。ひとりひとりの物語が、絡み合い、ひとつの大きな布になっていく。


 


◆ ◆ ◆


そして今日もまた、朝の鐘が鳴る。


少女たちは帽子を被り、作業服を着て、それぞれの「理由」と「夢」を胸に──糸車の前へ向かうのだ。


それはまるで、絹のように柔らかく、けれど強い物語のはじまり。


 


「よし、今日も一本、きれいに引けた!」


「うん! 私たちの未来、きっとまっすぐだよね!」


 


──そう。これは、少女たちが手で未来を紡ぐ群像劇。


“公爵家製糸ファクトリー”から生まれる、きらきらの絆の物語。

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