第3話 ウイリアム視点 お幸せに、って言っておきます!
ウイリアム視点:彼女は、ちょっと眩しい
卒業式当日。
本来なら、俺──ルマンド王国第三王子ウイリアム=ルマンド=グランフォード──は、もう少し祝福される立場だったはずだ。
だって、未来の王妃候補。しかも、隣国アルフォート王国の王女セザンヌ。
そんな姫を「俺のものにした男」になるはずだった。
なのに、現実はどうだ。
目の前で、セザンヌは他の男──レンブランドとかいう筋肉バカ──と腕を組み、堂々と懐妊宣言。
うん、痛い。心にぐっさりきた。
けど、それ以上に目を引いたのが、エリーゼだった。
あの子の笑顔。
痛みをごまかすための、無理やりな明るさじゃない。
ちゃんと、自分で未来を選び取ろうとする、強い意志をまとった笑顔だった。
王族の端くれとして生きてきた俺には、それが眩しく映った。
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「お幸せに、って言っておきます!」
あの一言。
堂々と言い切ったエリーゼに、思わず拍手したのは、正直な感情の発露だった。
誰も文句なんて言えやしない。あんなに、まっすぐで、きっぱりとした言葉を聞かされちゃな。
隣でヘンリー兄上がうっすら笑ったのも無理はない。
セザンヌが涙ぐんだのも、当然だろう。
なのに、レンブランドだけが、まるで取り残されたみたいな顔をしていた。
まあ当然だよな。
いい女を手放したこと、きっと今頃になって後悔してる。
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王家の会議室を出る時、俺は少しだけ悪戯心を起こしてしまった。
エリーゼの耳元に、そっと囁く。
「ねえ、エリーゼ。君みたいな子、嫌いじゃないよ」
……想像以上に、彼女は驚いた顔をした。
ぱちぱちと瞬きをして、顔を真っ赤にして、
それから、ぷんすか怒った顔で俺をにらんだ。
可愛い。
思わず笑ってしまったのは、仕方ないよな?
こんなに表情豊かで、元気な子、滅多にいない。
それに──
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正直、俺はこれまで、ずっと「王子様」として見られてきた。
美しいだとか、格好いいだとか、
上っ面だけの言葉を浴びて育った。
でもエリーゼは違う。
彼女の言葉も、態度も、全部が本音だった。
たぶん、俺が本気で泣いても、笑っても、怒っても、
きっと同じようにまっすぐ向き合ってくれるだろう。
そんな気がした。
それが──ものすごく、嬉しかった。
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もちろん、今すぐ何かを始めようなんて、そんな軽率なことは考えてない。
だって彼女は、今日、ひとつの別れを乗り越えたばかりなんだから。
でも、心のどこかで思う。
エリーゼとなら、
きっと、本当に笑える未来を作れるかもしれない、って。
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その後、エリーゼが魔法学院を卒業して冒険者になると聞いて、
俺はこっそり「彼女の近くにいられる方法」を探り始めた。
王子という立場を忘れて。
ひとりの「男」として、彼女に近づきたくなったからだ。
あのまぶしい笑顔を、
もっと近くで、もっと長く、見ていたい。
そんな願いが、心に芽生えたことを、
この時の俺は、まだ──はっきりとは自覚していなかった。