第4話 ミントチョコ・エリーゼが完成する
◆坑道アイス開発篇!◆
【エリーゼ視点】
「暑い……!」
その日、鉱山の坑道整備は朝から大忙し。地下のはずなのに、作業服の中はもう蒸し風呂状態。工具を持つ手もじっとり汗ばんで、みんなちょっとバテ気味だった。
「ちょっと休憩しよっか。水、持ってきてるから!」
私は簡易テントの中にみんなを呼び寄せて、水筒を並べた。
「助かるー……」
「まじで今日はキツイ……」
「これが本格稼働前ってやつか……!」
王都から来た修理士の卵たち──ローレンス、ルナ、ガスパルたちも、すっかり鉱山の仲間になっていた。工具を扱う姿もさまになっていて、どこから見ても立派な技術者候補生!
「でもね、こんな日こそ“甘くて冷たい何か”があったら最高だと思わない?」
私がそう言うと、ガスパルが目を丸くした。
「それって……アイス?」
「そう! 坑道アイス!」
ぴしっと指を立てて言ってみたけれど──
「え、坑道アイスってなに?」
「まさか、石の中から出てくる冷たいスイーツ?」
「それは氷妖精の仕業か何かですか?」
みんな笑ってる。うん、予想通りの反応だ。
「つまりね、鉱山で働くみんなのための特製アイス! 暑くて、疲れた時に、ひんやり甘くて元気が出る……そんなアイスを開発したいの!」
「えー、いいじゃんそれ!」
「でも、冷凍庫もないのにどうやって?」
「氷魔法で凍らせるの?」
「ふふふ、実はそこがポイントです!」
私は、近くの岩棚に立って、両手を広げた。
「この坑道には、風の通り道になっている“天然の冷気層”があるんです!」
「へえっ!? そんなのあるの?」
「気づかなかった……」
「昨日の夜、ちょっと迷い込んだときに発見しました! すっごく寒くて、ちょっと感動しちゃって……だから!」
私は叫んだ。
「この鉱山で、アイス、つくりますっ!」
◆ ◆ ◆
「というわけで、坑道アイス開発会議をはじめますっ!」
私の掛け声で、テーブルの上に材料が並んだ。
「牛乳! 砂糖! ミントの葉っぱ! そして──チョコレート!」
「まさか……」
「ミントチョコ味!?」
「そうですっ! 女の子が絶対喜ぶ味を目指してます!」
「って、エリーゼしか女子いないじゃん!」
「広報的に大事なんです!」
みんなが笑う中、私は真剣にスプーンを構えた。木のボウルに材料を混ぜて、冷気層の中でじっくり冷やす作戦!
「ローレンスくん、混ぜる係お願い!」
「おっけー、こういうの理科の実験みたいで楽しいな!」
「ルナちゃん、葉っぱちぎってー!」
「ミント係、了解! ふわっと香り立たせるのがコツだよ!」
「ガスパルくん、器に入れて搬送頼む!」
「冷気層って言っても奥が深いからなー。落ちないように見ててよ?」
みんなでワイワイしながら、アイスを冷やしていく作業は、どこか子どもの頃の夏の自由研究みたい。
──1時間後。
「……できてる!」
木のカップの中、ちゃんと固まっている。それを見た瞬間、私は叫んだ。
「みんな! 第一号、完成しましたっ! “坑道ミントチョコアイス”、試食お願いしますっ!」
「やったー!」
「いただきます!」
パクッ──
「……お、おいしい……!」
「うまっ! 冷たい! ミントがスーッとする!」
「チョコがほんのり甘くて、ちょうどいい……!」
歓声があがった。
「すごい……! エリーゼ、やるじゃん!」
「これ、休憩時間のごほうびになるよ!」
「お金とっていいレベルだよ、これ!」
「ふふふ……広報プリンセス、満足ですっ!」
私は胸を張ったけれど──そのとき、ルナがぽつりと言った。
「でもさ……冷気層、そんなに大きくないよね? 大量生産って難しくない?」
「え……」
「これ、鉱山全体の人に配るなら、もっとちゃんと冷やす方法が必要だよ?」
たしかに……今の量じゃ全員分までは無理かも……。
だけど──ローレンスがにっこり笑った。
「だったら、オレたちで“簡易冷却装置”つくればいいじゃん!」
「えっ?」
「金属管と、魔石式の冷却板、それと冷気層の風を流す装置があれば、ある程度温度を下げられるはず」
「おお、発明の匂いがする!」
「鉱山スイーツ革命だ!」
「じゃあ、その装置の名前は──」
私は思いついた。
「“アイス・マイスター・プロトタイプ零式(仮)”!」
「長いわ!」
みんながまた笑った。
──でも、笑いの中に確かに希望がある。
“坑道アイス”は、ただのスイーツじゃない。働く人たちの癒やしであり、仲間と作る喜びであり、技術が人を笑顔にする、まさにその象徴なんだ。
「このアイスが、鉱山の名物になりますように!」
私は願いを込めて、もうひとくち──ひんやり甘い、その幸せな味を楽しんだ。
◆坑道アイス 試作品第一号
名称:「ミントチョコ・エリーゼ」
味:さっぱり爽やか+ほんのりビター
人気度:全坑道5つ星中、5つ星!
特記事項:「また食べたい」と言われる率98%(エリーゼ調べ)




