第23話 つ、冷たくて甘くておいしいのですわ【第一部完】
【エリーゼ視点:甘い冷たい驚き】
◇ ◇ ◇
子馬の一件が無事に終わり、
私たちは牧場の売店に立ち寄った。
「エリーゼ、これを食べてみないか?」
ウイリアム様が、にこやかに手渡してきたのは──
「……これは?」
「ソフトクリーム、というんだ」
手のひらに、冷たくて白い渦巻きがのっている。
しかも、驚くほど甘い香りが漂っている!
「冷たいお菓子……?」
「そうだ。冷たいけれど、ふわふわと柔らかい。
元は、遥か彼方の異国──アルビオン(イギリス)で生まれたと言われている」
「アルビオン……!」
私はドキドキしながら、スプーンですくった。
口に運ぶと──
「……おいしいっ!」
口の中でふわっと溶ける甘さ。
冷たさが舌をくすぐり、まるで雲を食べているみたい。
「ふふ、気に入ったか」
「はいっ!」
ぴょんと跳ねそうなくらい嬉しかった。
◇ ◇ ◇
「このソフトクリームはな、昔、王国博覧会のために、
特別に考案された冷たいお菓子だったんだ」
ウイリアム様が、私の隣で教えてくれる。
「それまで氷菓子といえば、ただの氷を削ったものだった。
だが、冷たいままでも柔らかい菓子──それを作るため、
新しい冷却機械と特別な製法が発明された」
「へぇぇ……」
「最初は、貴族や富豪だけが味わえる高級品だったらしい。
だが、その後、徐々に庶民にも広がっていったんだ」
「すごい……!」
私は、目を輝かせて聞いた。
「それで……王都にも?」
「いや。実は、王都に来たのはごく最近だ」
ウイリアム様は少し笑った。
「外国の技術者がもたらした『冷却機械』と、
バンダーム領の酪農家たちが協力して初めて実現できた」
「つまり……ここ、バンダー高原が?」
「そうだ」
彼は、遠く牧場を眺めた。
「新鮮な牛乳が必要だからな。
それに、夏でも涼しいこの高原は、ソフトクリーム作りに最適だった」
「わぁ……!」
私は胸が熱くなった。
こんな素敵なものが、ここから始まるなんて!
◇ ◇ ◇
「ちなみに、日本──遠い東の島国でも、
ソフトクリームが広まったのは、今から約80年ほど前だと言われている」
「80年も前に……?」
「そうだ」
ウイリアム様は、また優しく微笑んだ。
「正確には1951年、当時の日本では、アメリカの独立記念日に明治神宮外苑で開かれた米軍主催の祝典で販売されたようだね。
戦後しばらくしてから、東京のデパートなどで人気になり、そこから全国に広がったらしい」
「……なんだか、夢みたいなお話ですね」
私は、もう一口ソフトクリームをすくった。
◇ ◇ ◇
白い渦巻き。
冷たくて、甘くて、ふわふわで。
それはただの美味しさじゃない。
異国の技術者たち、酪農家たち、そして新しい時代を切り開く人たちの
努力と希望が詰まった、小さな奇跡だった。
「ウイリアム様……」
私は、彼の手をぎゅっと握った。
「これから、もっといろんなものを、
一緒に知っていきたいです」
「……ああ」
彼は、静かに、でも力強くうなずいた。
◇ ◇ ◇
夕陽の中で食べた、白い渦巻きの甘い記憶。
それは、バンダー高原の風とともに、
私たちの心に優しく溶けていった──。【第一部完】
第一部完了しました。最後までお読みいただきありがとうございました。感謝です。ポイント評価などいただけると励みになります。m(__)m
連載中です。こちらも良かったらよろしくお願います。
「俺は、おまえとの婚約を――ここで破棄する!」王立魔法学院の卒業式で婚約廃されたアンジェは、老伯爵に嫁がされる!助けて!怪盗ブラック様!少女の叫びが届くのか?
【絶対に許さない!】結婚間近の恋人を奪われ、さらに冒険者パーティーから追放、貴族の圧力で街にいられなくなった。お前らの血は何色だ!剣聖ライン=キリトの復讐は始まる!




