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第21話 鉄道に乗って、高原に行ったお話ですわ!

【エリーゼ視点:ふたりで行く、未来への列車】


◇ ◇ ◇


王都の昼下がり。

城の中庭では、真夏の陽光が石畳に反射して、じりじりと焼け付くようだった。


「ウイリアム」


控室で休んでいた私たちのもとへ、国王陛下がやってきた。


「父上……いかがなさいましたか?」


ウイリアム様が立ち上がり、恭しく頭を下げる。


だが、国王陛下はどこか照れたような顔をして、ふと周囲を見回した。


「いや、少し相談したくてな。堅苦しい話ではない」


「……?」


ウイリアム様も、私も、首をかしげる。


国王陛下は、喉をひとつ鳴らし、言った。


「この暑さだ。どこか、涼しいところはないかと思ってな。

できれば、王都から遠すぎず、馬車で行くのも億劫にならぬ距離で……」


「避暑地、というわけですね」


「うむ。王妃も夏バテ気味でな。涼しい場所で休ませてやりたいのだ」


その声音には、国を治める王ではなく、一人の夫としての優しさが滲んでいた。


ウイリアム様は少し考え、それから、にやりと笑った。


「心当たりは、あります」


「ほう?」


「ただ、確信は持てません。調査をして、改めてご報告いたします」


「うむ、頼んだぞ、ウイリアム」


そう言って、国王陛下は満足げに頷き、立ち去った。


◇ ◇ ◇


「エリーゼ」


帰り道、ウイリアム様が私に声をかける。


「はい?」


「少し、遠出をするぞ」


そう言って、にっこりと笑った。


「父上に頼まれた。王都から近い、涼しい場所を探してほしいとな」


「避暑地、ですね」


「そうだ。ちょうど俺たちの鉄道の終着駅近くに、目をつけていた場所がある」


「えっ、どこですか?」


「バンダーム領地の『バンダー高原』だ」


バンダー高原——。

名前だけは、私も聞いたことがある。


「標高が高くて、夏でも涼しい。山々も美しい。

しかも、駅から近い。牧場まであって、自然も豊かだ」


「……なんて素敵な場所!」


私はぱあっと顔を輝かせた。


「行ってみますか?」


「はいっ!」


即答だった。


ウイリアム様が、くすっと笑った。


「よし。じゃあ明朝、出発しよう。列車でな」


「はいっ!」


新しい旅の始まりに、胸が高鳴る。


◇ ◇ ◇


翌朝。


私たちは、王都中央駅に立っていた。


つい先日、鉄道開通式で訪れた場所だ。

でも、今日は『乗客』として。


「エリーゼ、切符は?」


「ちゃんと持ってます!」


胸を張ると、ウイリアム様が優しく笑った。


「よし、行こうか」


汽笛が鳴り響く。

白銀の機関車が、朝日に輝いていた。


◇ ◇ ◇


列車に乗り込むと、ふかふかのシートに身体を預ける。


「わあ……!」


窓の外には、朝靄に煙る王都の街並み。


ゆっくりと列車が動き出すと、ウイリアム様が言った。


「エリーゼ、鉄道の旅は初めてか?」


「はい!こんなに早く乗れるなんて思いませんでした」


「よかった。君に、最初の旅を贈りたかったんだ」


さりげなく、でも甘く囁かれて、私は思わず頬を赤らめた。


「ウイリアム様……」


「ほら、景色がいいぞ」


照れ隠しのように、ウイリアム様は窓の外を指差した。


黄金色に揺れる麦畑。

遠くに連なる青い山々。


列車はまるで、絵本の中を走っているみたいだった。


◇ ◇ ◇


「次は、終着駅──バンダー!」


車掌の声が響く。


私たちは、列車を降りた。


空気が違う。ひんやりとして、胸いっぱいに吸い込むと爽やかな香りがした。


「わあ……!」


駅を出ると、目の前に広がるのは一面の高原。


遠くには、なだらかな山並み。

白い牧場の柵が、絵のように続いている。


「すごい……まるで、絵画みたいです」


「だろう?」


ウイリアム様が得意げに胸を張る。


「ここが、バンダー高原だ。夏でも涼しく、冬は雪に閉ざされる。

だが、今の季節は最高だ。馬たちも、放牧されている」


◇ ◇ ◇


私たちは、高原を歩いた。


草の香り。鳥たちのさえずり。

遠くで牛たちがのんびりと草を食んでいる。


「ここなら……王妃様も、ゆっくり過ごせますね」


「そうだな。父上も、気に入ってくれるだろう」


ウイリアム様が、遠くの連山を指差した。


「見ろ、あれが那須連山だ。あの稜線の美しさは、この国でも屈指だ」


「すごい……!」


私は、夢中で見入った。


どこまでも続く、青く高い山々。

その下に広がる、涼しい風の吹く高原。


「ここに、避暑地を作ろう。

別荘を建てれば、王族だけでなく、貴族たちも訪れるようになる」


ウイリアム様が、未来を見据える声で言う。


私は、そっと手を重ねた。


「きっと、素敵な場所になりますね」


「……ああ」


二人で見上げた空は、どこまでも青く、澄み渡っていた。


◇ ◇ ◇


帰りの列車の中。


エリーゼは、窓に顔を寄せて、名残惜しそうに景色を眺めていた。


「楽しかった?」


ウイリアム様が、優しく尋ねる。


「はいっ!すっごく!」


「じゃあ、また来ような」


「はい!」


列車のリズムに揺られながら、私は心の中で何度も誓った。


この人と、これからも。

未来へ、どこまでも。


───

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