第20話 わーい、ついに鉄道が開通しましたわ!
【エリーゼ視点:鉄道開通の日、家族の絆】
王都に戻ってから、二週間。
ウイリアム様は、まさに飛び回るように忙しかった。
鉄道の最終点検に、式典の準備、各地への使者の手配……
息をつく暇もない日々だったけれど、その横顔はいつも誇らしげだった。
「エリーゼ」
ある夜、やっと落ち着いた書斎で、ウイリアム様が私に微笑みかけた。
「はい?」
「……あと少しで、すべてが繋がる」
机に広げられた地図を指差して、言う。
「鉄道が、王都からバンダーム領へ。それから、さらに東へ、西へ。
人も物も流れ始める。国が、動き出す」
その目は、まるで未来を見ているようだった。
私は胸がいっぱいになって、自然と笑みが溢れた。
「ウイリアム様……素敵です」
「エリーゼ、君がそばにいてくれるからだ」
そっと、手を重ねてくれる。
あたたかい。
この手となら、どこまでも行ける。
◇ ◇ ◇
そして、ついに——
開通式典の日がやってきた。
朝、支度をしていると、控室の扉がノックされた。
「エリーゼ?」
「は、はい!」
緊張で固まりかけていた私のもとに、ウイリアム様が入ってくる。
「心配するな。今日は、俺たちにとって新しい門出の日だ」
そう言って、ウイリアム様は、優しく手を取った。
「エリーゼ、君は俺の妻であり、これからの公爵家を支える人だ」
「……はい!」
「そして、俺は国王陛下と王妃陛下の実の息子だ。
君も、家族として迎えられることを、父上も母上も心から喜んでいる」
ウイリアム様のまっすぐな瞳に、私は勇気をもらった。
「一緒に、行きましょう!」
「もちろんだ」
◇ ◇ ◇
会場は、王都中央広場。
貴族たち、役人たち、市民たちで、すでに大賑わいだった。
ステージには、新たに完成した駅舎が誇らしげに佇んでいる。
——ファンファーレが鳴った。
「国王陛下、王妃陛下、ご到着です!」
黄金の馬車から降り立ったのは、威厳に満ちた国王陛下と、
気品と優しさを兼ね備えた王妃陛下だった。
その瞬間、広場全体が静まり返る。
「う……」
私は、思わず背筋を伸ばす。
ウイリアム様の実のご両親——。
つまり、私にとっても、義理の父母になるお二人。
「大丈夫だ」
ウイリアム様が、私の手をぎゅっと握り、ささやいた。
「君は俺の大切な妻だ。誇っていい」
その一言で、緊張がふわりとほぐれる。
◇ ◇ ◇
「ウイリアム」
国王陛下は、ゆっくりと歩み寄り、ウイリアム様を力強く抱きしめた。
「よくぞここまで、成し遂げたな」
「ありがとうございます、父上」
ウイリアム様が、穏やかに答える。
国王陛下は、そのまま私に視線を向けた。
「エリーゼ=ヴァレンティア公爵夫人、だったな」
「は、はい!」
私は緊張で声が上ずりそうになる。
「よく来てくれた。ウイリアムを、頼む」
「……もったいないお言葉です!」
思わず頭を下げる私に、王妃様がふわりと微笑みかけた。
「そんなにかしこまらなくてもいいのですよ、エリーゼさん」
王妃様は、私の手を取った。
「あなたがウイリアムの選んだ人なら、私たちは心から歓迎します」
「……ありがとうございます」
胸がいっぱいで、涙が出そうになる。
ウイリアム様が、私の手を取って、ささやく。
「これが、俺の家族だ。これからは、君も」
「はい……!」
◇ ◇ ◇
式典が始まる。
壇上に立った国王陛下が、力強く宣言する。
「ここに、鉄道開通を宣言する!」
ドオオオオオッ——!
広場いっぱいに、歓声が広がった。
白銀の機関車が、盛大な蒸気を噴き上げ、線路の上を進み出す。
「すごい……!」
私は、目を輝かせた。
ウイリアム様が耳元で囁く。
「乗りたいか?」
「はいっ!」
「じゃあ、行こうか。記念すべき一番列車だ」
◇ ◇ ◇
真新しい車両に乗り込むと、柔らかなシート、木の香り。
そして、窓の外には広がる王都の街並み。
「動きます!」
汽笛が鳴り、ゆっくりと列車が進み始める。
ウイリアム様が、私の手をしっかりと握った。
「エリーゼ。これが、俺たちの始めた未来だ」
「はい!」
窓の向こうに、広がる無限の可能性。
私はこの人と、どこまでも行きたいと思った。
◇ ◇ ◇
式典のあとは、王城での祝賀会。
国王陛下も、王妃様も、心から楽しそうにしていた。
「エリーゼ」
王妃様がそっと近づいて、耳打ちしてくる。
「これから、ウイリアムのこと、たくさん叱ったり、励ましたりしてあげてね」
「……はいっ!」
思わず笑顔になる。
「小さい頃から、あの子は負けず嫌いで、でも、本当に優しい子だから」
「……ええ。わかります」
私は胸に手を当てて、素直に答えた。
その様子を見て、王妃様もにっこりと微笑む。
「いいお嫁さんになったわね、ウイリアム」
王妃様の声に、ウイリアム様が少し照れたように笑った。
「自慢の妻です、母上」
◇ ◇ ◇
夜。
パーティーが終わって、私たちは城のバルコニーに出た。
夜風が気持ちよく吹き抜ける。
「……今日という日を、君と迎えられて良かった」
ウイリアム様が、そっと私の肩を抱く。
「私もです」
「エリーゼ」
「はい?」
「これからもずっと、一緒に歩いていこう」
その瞳に、確かな未来を見た気がした。
私は大きく頷いて、彼に微笑みかけた。
「ええ。どこまでも、ご一緒します」
満天の星が、祝福するようにきらめいていた。
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