あやしきは罰しましょうか?
主人公が婚約者と出会うお話です。
ミニストーリーなのでお気軽にどうぞ。
駆け出し者につき、ご容赦ください。
大きいお屋敷に住む令嬢、それがわたくしロザリーです。
本日、父上がやっと城から帰って来ます。
2週間越しの再開を前に、胸がはずんでしまいます。
メイドや執事たちもソワソワと廊下をいったり来たりしていますわ。
メイドたちの白いカチューシャが頭上でパタパタしていて、ライオンのたてがみのようです。
今夜は家族みんなの好物で晩餐になる予定です。
お気に入りのチェリーパイが夜までに焼き上がるか、少し不安です。
ここにいてもお邪魔になりそうですので、私は温室でハーブを摘むことにいたしましょう。
父上にお出しする、オリジナルティー用です。
サラダが苦手な父上も、葉っぱから抽出した飲料なら克服できるかもしれないものね。
思う存分温室を散策して、ハーブをいっぱいに入れたカゴを運んでいると、廊下で執事とすれ違いました。
「ロザリーお嬢様、先程ご当主がお戻りになられました。
すぐに夕食になさるとのことですので、お早めにご準備くださいませ」
熱中しすぎて、父上を迎え損ねてしまいましたわ。
急いでお部屋に向かわなければならなそうね。
食卓には母上と弟のルディがいました。
席に座ってホッと息つくまもなく、父上のご登場です。
父上よりは早く来れてよかったわ。
「長く屋敷を空けたな。今回はロザリーのことで招集されたようだ」
え、わたくしのことでですか。
ちょっと聞くのがこわいです。
「婚約者を決めてはどうかとせっつかれてしまった。
ロザリーも12才になるし、ハートル卿の御子息などはどうか、と」
父上のお言葉に、母上も思案顔です。
「たしか息子のノア様は15才で、釣り合いはいいかしら」
ルディは好物のグラタンを必死に食べています。
姉上の縁談話より食べ物が大事みたいで、ちょっとガッカリ。
「近々会ってみてはどうだろうか」
こうして私は未来の婚約者様と顔合わせすることになった。
「はじめまして、ロザリー・アーノルドと申しますわ」
予定通りノア様ご一行が、こちらのお屋敷に訪ねていらっしゃいました。
馬車から降りる気配を感じ、挨拶をします。
そして顔を上げると、スラリとした青年の姿が見えました。
「はじめまして、ノア・ハートルと申します。
本日はよろしくおねがいしますね」
笑顔の似合う爽やかなイケメンを前に、思わずポカンとしてしまいました。
年は3つしか違わないのに、とても大人っぽくて素敵なの。
父上たちの会話なんて耳に入ってきません。
「では後は若いお二人に任せましょう」
かろうじてノアのお父様の言葉だけ理解できたわ。
心の準備はまだできていないのだけれど。
「僕もこういった場は初で、緊張しているんですよ。
僕のことはどうぞノアと呼んでくださいね」
ついにノア様と二人きりになってしまいましたわ。
「わたくしもなのです、ノア様。
あっ、どうぞロザリーと呼んでください」
「馬車から拝見したのですが、素敵な庭園ですね。
僕は花の種類などには詳しくないのですが、見惚れてしまいました。」
わあ、自慢の庭園を褒められました。
魅力的な殿方に認めてもらえて、ロザリーは舞い上がってしまいます。
「お褒めいただき、ありがとうございます。
わたくし温室でハーブも育てていますので、そちらもご覧くださいませ」
その日はハーブの鑑賞と次回の日程合わせをして、お開きになりました。
「素敵な人でよかったわね、ロザリー」
「本当ですよ、姉上。次回が待ち遠しいですね」
母上やロディにからかわれているようで、何ともいえません。
でも楽しみなのは本当なので、強く言い返せませんわ。
約束の日になりました。
今回は向こうのお屋敷にお邪魔するのです。
なぜか父上に加えて弟のロディまでお邪魔しています。
「それで、なぜロディも着いてきているのかしら」
「書状に弟さんもご一緒にと記載されています。
どんなお屋敷かワクワクしますね」
5才も離れているのに、肝の据わった弟ですわ。
「ようこそおいで下さいました。
ロザリー嬢はすみれ色のドレスがよくお似合いです。
すみれの花も、あなたの可憐さにはかないません」
ノア様は女の子を喜ばせるのがお上手なのです。
「姉上も恥ずかしがってないで、さあ」
もじもじしていると、横からロディが囁いてきました。
ロディにはなんでもお見通しのようです。
「あ、ありがとうございます。
ノア様もお素敵ですわ。」
中に案内してもらうと、庭園に誘われました。
私が植物好きなことを覚えてくれてたみたいで、嬉しくなってしまいます。
思ったよりも広い庭園で、素敵なお花が咲きみだれています。
散歩の休暇がてら、バラのアーチがかかったベンチで休憩することにしました。
「いきなりなのですが、受け取ってもらえますか」
ノア様から月がモチーフのペンダントをいただきました。
「よろしいのですか?
実は”月の裏は大晦日”の劇がお気に入りで、月の意匠をこらしたアクセサリーが好きなのです。」
この劇は令嬢たちの間で大流行しています。
月の模様が入ったものを見に纏うのが流行りなのです。
令嬢たちの流行りまでおさえているとは、さすがノア様ですわ。
いろいろお話ししているうちに、陽が傾いてきてしまいました。
「それでは本日はこんなところで解散にしましょう。
次回はとなりの城下町などでいかがでしょう」
となりの城下町は美味しいスイーツが多いので、令嬢方にとても人気があります。
「はい、楽しみにしておりますわ」
そうして、わたくしたちは馬車に乗り込みました。
「仲良く話せているようで安心だよ」
「プレゼントまで頂いたみたいでよかったですね」
父上とロディが口々に言います。
「わたくし、ノア様が完璧過ぎて信じられませんの」
つい、疑念を口に出してしまいました。
ノア様ったら女の子の扱いが上手で、流行にも敏感、おまけに気まで効くのですもの。
令嬢との顔合わせが初めてなはずないですわ。
最近の流行りまでチェック済みなのです、現在進行形で親しいご令嬢がいらっしゃるに違いないのよ。
かなりグレーゾーンですから、次回はどうしましょうか。
そしたらロディが笑い始めました。
「姉上は察しが良いのか、悪いのかどちらでしょうね。
仕方がないのでネタバラシとしましょうか」
どうやらロディはノア様と文通していたようです。
ノア様に強く頼まれたそうで、わたくしの好みや趣味なんかを伝えていたのですって。
「一応、一般的なご令嬢が好むことや流行りも教えておきました」
ふふん、とドヤ顔のロディです。
なるほど、ノア様の容疑はほとんど晴れましたわ。
「それで、あなたはどこで”一般的なご令嬢が好むことや流行り”を知ったのかしらね」
どうやら、グレーゾーンなのは実の弟だったみたいです。