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なろうっぽい小説

可哀想な負けヒロインへ

作者: 伽藍

王太子を略奪しようとして悪役令嬢に喧嘩を売って返り討ちにあって他国に逃げ延びたヒロイン、を見守る魔女の話。

「おはようございます、魔女様」


 呼ばれて、魔女は振り返った。視線の先には、美しい娘が佇んでいる。

 ちょうど少女から女性に花開くような年齢の女性だった。つい数ヶ月前に、魔女の養い子にして弟子になった娘だ。

 魔女は振り返って頷く。


「おはよう、わたしの可愛い夕焼けの子。よく眠れたかな」

「ええ、ぐっすりですわ」

「顔は洗ったかな? 朝食を用意してあげよう」

「洗いました。ではその間に、薬草たちへの水やりと朝摘みを済ませてきますね」


 魔女の言葉に心得たようにそう言って、娘は踵を返した。

 魔女が見守っていればすぐに庭に出て、近くの物置に置いてある如雨露を手に取っている。

 この中に魔法で水を入れて、如雨露で水やりをするのだ。迎え入れたばかりの頃は、如雨露に水を汲むにも水道を使わなければならなかった。

 娘の魔法の上達は早い。そう時間を使わないうちに、如雨露などなくても水やりができるようになるだろう。


 魔女から見える娘の横顔は上機嫌で、問題なく眠れたのは嘘ではなさそうだ。そのことに、魔女はほっと息を吐いた。

 娘がこの小さな屋敷に来たばかりの頃は、悪夢に魘されてばかりでろくに眠れていなかったようだから。


 娘が不意に魔女を振り向く。視線に気づいたらしい。


「朝からお酒なんて飲んじゃダメですよ、魔女様!」


 そんな生意気まで言ってくる。娘の心身が健康を取り戻すのは良いことだが、口が達者になるのは困りものだな、と魔女は唇を曲げた。

 朝の光を受けて、娘の鮮やかなオレンジの髪が輝いている。夕焼けを流したような髪は、魔女が娘を迎え入れることを決めた理由の一つだ。


 数ヶ月前までの娘は、魔女の住む魔族王国から遥か遠い場所にあるとある王国の男爵令嬢だった、らしい。

 らしい、というのは、魔女が直接的にはその頃の娘を知らないからだった。魔女はとても力の強い魔女であり夜の眷属だったので、月の光がとどくのであればあまねく世界中を知ることができたけれど、それでも全知ではなかった。


 娘を魔女に紹介したのは夜の妖精だった。月の光から生まれた、小さな小さな妖精だ。

 娘は人間を憎んでいたし社会を憎んでいたしおよそ大概のものを憎んでいたけれど、それでも無邪気で力の弱い妖精たちに対する優しさまでは忘れていなかったらしい。友だちなのだ、と聞いた。


 娘が水やりに向かうのを見送って、魔女はキッチンに向かった。今日のメニューは作り置きのポトフとパン、甘いスクランブルエッグとベーコンだ。

 魔女は見た目は若いけれど、実際にはとても長寿なので腰を折るような作業はしたくない。キッチン下部の収納にしまわれた小さめのフライパンを魔法で引っ張り出しながら、魔女は保存魔法がかかった棚から卵を取り出した。


 血の繋がらない娘を思い浮かべる。魔女自身も他人を簡単に狂わせるほどに(魔女はうっかり一つの国を丸ごと狂わせたことがある)美しい女だけれど、娘も花開く前の瑞々しさも相まって、見るものが見れば求めずにはいられないだろう美しさだった。


 魔女に引き取られたばかりの頃、娘は言った。わたしはヒロインだったんです、と。

 惜しむというよりは、疲れたように。嘲るというよりは、憎らしげに。


 娘は、とある王国の男爵令嬢だったのだという。正確にいえば、その王国で貴族たちが学園に通い始める直前の十四の歳に、庶子という設定で男爵家に引き取られたのだという。

 実際には男爵家とは何の関係もなかった。見た目の美しさから使えるのではないかと眼を付けられただけだ。


 そして男爵令嬢となった娘は見た目の美しさと幼げで親しげな雰囲気を武器にして次々と令息たちを虜にし、ついには王太子まで籠絡したのだそうだ。

 市民たちの喜びそうなシンデレラストーリーだ。亜人たちの多い国では種族の都合から身分差の恋愛は珍しいことではないけれど、純人たちの国ではさぞ話題になったことだろう。

 魔女はもちろん、さっぱり知らなかったけれど。


 物語であればそのままハッピーエンドだ。けれど、そうはならなかった。


 王太子には、隣国である帝国の皇女の娘でもある公爵令嬢の婚約者がいたのだという。娘に夢中になった王太子は、その公爵令嬢との婚約を破棄しようとした。

 国中の令嬢たちに慕われていた公爵令嬢を敵に回した王太子はあっという間に凋落したそうだ。直系の王子が少なかったから廃嫡にこそならなかったけれど立太子は取り消され、当時男爵令嬢だった娘は国を混乱させた罪を問われて国から追い出された。

 婚約を破棄された公爵令嬢はといえば、王国よりも大きな国である帝国の皇太子に請われて皇太子との婚約を結び直したのだという。


 当時を思い返して、娘は言った。可愛らしいピンクの唇を曲げながら。

 何の意味もありませんでした、と。


 嘲るような声だった。疲れたような声だった。どうして生まれたのだろうと親に問うような、いっそ屈託のない声だった。

 魔女の前で涙すら見せずに虚しい表情でそう言った娘は、手の中で一つの指輪を転がしていた。帝国のとある公爵家当主にのみ受け継がれる、特別な力を持った指輪だった。


 娘の高祖母は、帝国の公爵家の長女だったのだという。

 よくある話だった。早世した女公爵の忘れ形見である娘と、入り婿の身で浮気をした挙げ句に女公爵が亡くなったのを幸いと愛人とその娘を公爵家に引き入れた男。

 本当によくあり過ぎて、魔女は感心してしまったものだった。人間とはいつの世も金と女に溺れるものである。


 高祖母は当時の第二皇子と婚約していたそうだ。それが異母妹と懇ろになり、難癖をつけられて公爵家から追い出されたという。しかも、どうせ野垂れ死ぬのだから良いだろうと言わんばかりに、第二皇子は高祖母を力で押さえつけて散々に弄んで捨てたそうだ。

 命からがら逃げ延びた高祖母は隣国である王国に流れ着き、そこでやむを得ず妊娠した子どもを産んだ。女の子だった。


 女一人で子どもを育てるというのは、並大抵のことではない。それも元々は公爵令嬢だったのだから、慣れないことばかりで尚更大変だっただろう。

 彼女は諦めなかった。流れ着いた先の王国でカフェの給仕の仕事につき、子どもを育てた。これが魔女が引き取った娘の曾祖母になる。


 曾祖母が十二になる前に、高祖母は亡くなった。それでも周囲の手を借りながら曾祖母は母親と同じカフェで働いていたが、ある日にとある公爵家当主の男性に見初められて半ば攫われるように愛人として囲われた。当時、曾祖母はまだ十三だったという。

 そうして生まれたのが祖母だそうだ。曾祖母は祖母の出産時に亡くなり、祖母は公爵家の血を引く娘でありながら使用人同然の待遇で育てられた。


 祖母が十二になると、公爵家は祖母を王宮の使用人として送り込んだ。育てた分を金で返せと思われたのか、美しい少女であったそうだからあわよくばという思いもあったのかも知れない。

 そして案の定、祖母は当時の国王のお手つきになった。祖母はほとんど身一つで逃げ出し、辿り着いた救貧院で出産した。十三の頃だった。そうして生まれたのが娘の母である。


 祖母と母は身を寄せ合うように暮らしていたが、もともと栄養状態が悪く、体の弱かった祖母はあっという間に亡くなってしまったそうだ。

 折り悪く、そんなときに母は、たまたま外遊にきていた当時の帝国の皇太子に眼を付けられた。突然に攫われて、複数人の男たち(おそらくは騎士か護衛だったのだろう、と母は言っていたらしい)に押さえつけられて、無理やりにことに及ばれた。

 そうして、魔女が引き取った当人である娘が生まれた。子どもを産んだとき、母は十歳だった。


 今度こそ、母は王都から逃げ出したそうだ。働き口は減るけれど、田舎であれば貴族たちに見つかりづらいだろうと考えて。

 実際に、それはある程度はその通りだった。娘はちょっと歳の離れた姉くらいの年齢差の母親と一緒に、貧しいながらわりと平穏に暮らしていたそうだ。


 王国のとある男爵家当主が、そんな母娘の生活を土足で踏み荒らしたのはそんなときだった。

 当時の母娘は小さな町に住んでいたけれど、困ったことに美しさがちょっとした話題になってしまった。その美しさで、男爵家に眼を付けられたのだ。

 二十歳を超えた女に用はなかったのか娘を産んだ女に用はなかったのか、母娘の二人で逃げ出したのに母親はあっさりと殺された。そうして攫われるように、娘は男爵令嬢となったのだった。


 養父となった男爵は、娘を道具として扱う気らしかった。飛びきりの男を誑かして足を開けと言った。

 娘は育った環境から学はあまりなかったけれど、頭は良かった。だから、男爵の言っていることがまずいことであることは理解できた。


 だから娘は、復讐することにしたのだ。高祖母の、曾祖母の、祖母の、母の、四代も続けて男たちに弄ばれた母たちの、復讐をすることにしたのだ。

 男爵の指示通りに動けば、問題であることは判っていた。だからその通りに動いてやって、片っ端から色んな人間を不幸にして、男爵まで巻き添えにして地獄に落ちてやるつもりだった。


 娘は頭が良かった。だから復讐になんて意味がないことは知っていたし、馬鹿な真似をすれば自分もただでは済まないことは判っていた。

 娘は学がなかった。だから、権力も腕力も持たない自分が復讐する方法なんて他に思いつけなかった。

 娘には何もなかった。大切なものなんて何一つなかったから、自分にも他の何にも興味がなくて踏みとどまる理由なんて一つもなかった。


 娘は頭が良かった。だから男が望む言葉を口にできたし、どうすれば男が気分を良くするかを知っていた。娘の周りには、母と娘の美貌に群がる男たちが掃いて捨てるほどいたので。

 娘は頭が良かった。だから女たちの気持ちが理解できたし、どうすれば女たちがより気分を悪くするのかを知っていた。娘の周りには、母と娘の美貌を妬む女たちが掃いて捨てるほどいたので。


 結果はよくあることだ。一人の美しい少女に夢中になる男たち、嫉妬して少女を虐げる男たちの婚約者、拗れる人間関係。

 王太子なんていう大物を釣り上げられたのは、単純に運が良かったのと、王太子が馬鹿だったからだ。王太子が釣れてからは、娘は王太子に狙いを絞った。

 王太子は簡単に唆されたそうだ。そうして王太子がついに婚約を破棄するなどと言い出して、今に至る。


 娘は魔女の前でそこまでつらつらと語り終えて、一息つき、でもね、と幼い子どものように言った。

 でもね、何の意味もありませんでした、と。


 木のうろが風を受けて嘆くような声だった。虚ろで、空っぽで、もの悲しい声だった。


 実際に男爵令嬢だった娘が動き回った王国では、多数の貴族令息令嬢たちの婚約が解消されたという。あるいは婚約が継続された組み合わせでも、間違いなく関係は悪化したという。

 一度失われた信頼は二度と戻らない。わだかまりは一生続くだろう。きっと娘が関係を引っかき回したものたちは、娘が何もしなかったときに比べてほんの少しだけ不幸になった、かも知れない。

 けれど、それだけだ。別に国がひっくり返るわけでも、王家がすげ変わるわけでもない。国は滞りなく、今まで通りに回るだけ。


 何の意味もありませんでした、と娘は言った。疲れたみたいに。

 何よりも、と娘は言った。そのときだけ、ほんの少しだけ、娘の声に感情がこもった。


 たぶん、それは憎しみだった。最初から何も持たない娘が、何も持たないから何にも興味を持たない娘が僅かに感情を垣間見せた、それは憎しみだった。

 娘の不幸はもう何代も前から続いていて、それは大概が男の欲望によるものだった。けれど娘が最終的にほんの僅か執着したのが王太子の婚約者である公爵令嬢だったのは、きっと同じ女だったからだろう。


 王国の公爵令嬢には、本当に何も、傷一つつけられなかった。娘がいくら王太子に絡もうが、親しく接しようが、王太子が婚約者である公爵令嬢よりも娘を優先しようが、涼しい顔をしていた。

 そうして最後にはあっさりと王太子を捨てて(婚約を破棄したのは王太子だったけれど、実際には捨てられたのは王太子で捨てたのは公爵令嬢だった)、王国よりも大きな帝国の皇太子に求められて婚約を結んだのだ。


 何の意味もありませんでした、と娘は言った。生きていることの無意味さを自分に言い聞かせるみたいに。


 何が違うんだろう、と娘は言った。道理を知らない、幼い子どもみたいに。

 血筋だけで言えば、公爵令嬢と娘はそれなりに近い関係にあたる。娘は帝国の皇族と公爵家に王国の王族の血まで引いているから、もしかしたら血統だけの話をするならば公爵令嬢よりも勝っていたかも知れない。

 けれど、それだけだった。公爵令嬢は全てを持っていて、娘は何も持っていなかった。たった一人の母親すら権力に殺された。あっさりと、ゴミみたいに。


 娘のまだ十二、十三歳だった曾祖母を孕ませたのは公爵令嬢の祖父だ。ゴミくずみたいな、ウジ虫みたいな、畜生みたいな男はいまだに何の咎めも受けずに豊かに幸せに暮らしていて、その血を引く公爵令嬢もいずれ皇太子妃、そして皇妃として豊かに暮らすだろう。

 幸せであるかは判らないが、ひとまず明日のご飯も食べられるか判らないなんて状況は彼女には想像すらできないだろう。娘にとってはただそれだけで、公爵令嬢を憎む理由になった。


 やはり十二、十三歳だった祖母を犯した当時の国王も、九、十歳だった母を犯した当時の皇太子も、ただの一つも咎めなど受けていない。ゴミくずみたいな、ウジ虫みたいな、畜生みたいな本性を優しげな顔の裏に隠して、豊かに幸せに暮らしている。


 わたしがしたことは何の意味もなかったのでしょうね、と娘は言った。諦めたような、得心したような、自分に言い聞かせるような声だった。

 娘には学がなかったし、味方がいなかった。何も持っていなかった。何より疲れていたし、人間も社会も何もかもを憎んでいた。

 娘がしたことはちょっとした嫌がらせくらいの意味しかないし、それだって権力を持つものたちからしてみれば肩に小さな綿埃がついたくらいの話でしかない。


 娘の意図に反して、男爵家に対しても大した咎めはなかった。男爵家の当主は、早々に娘を切り捨てて保身を図ったのだ。娘がしたことには本当に、何の意味もなかった。

 元王太子だって、今でこそ廃太子されているけれど、数年後には禊ぎは済んだと見なされて再び立太子されるかも知れない。

 何もかも全て娘の独りよがりで、娘は無力で、娘の憎むあらゆるものにはただの一つも傷などつけられなかった。


 夜の妖精から娘を紹介されたとき、魔女はたいそう心配したものだ。この子、数週間ももたずに亡くなってしまうのではないのかしらん、と。


 けれど魔女の心配に反して、娘は少しずつ元気を取り戻していった。ほとんどご飯も食べられなかったのが少しずつ食べられるようになり、味の好みを口にするようになり、ついには生意気な口を利くようになった。

 ならば良かったのだろう、と魔女は思っている。


 男爵令嬢だった娘がしたことには何の意味もなく、何も変わらず誰にも影響はなく、きっと国はこれからもつつがなく回るだろう。ゴミくずはゴミくずのまま反省しないし、弱く戦う力を持たない女性たちは権力や腕力を持つ男たちにオモチャのように踏み潰される。


 娘の母が、祖母が、その前の女性たちがなぜ不幸な目に遭ったのか、魔女は簡単に説明することができる。帝国の公爵令嬢であった高祖母を除けば、みな貧しかったからだ。そして恐らくその高祖母は、悪意に負けてしまう程度には弱かった。

 貧しい親の子どもは貧しい。弱い親の子どもは弱い。彼女たちはただ貧しく、弱かったから、男たちの食い物にされて、オモチャにされて、悪意と欲望の前に為す術もなく屈するしかなかった。

 娘だって貧しくて弱かったから、復讐と言いながら誰にも何にも影響を与えることなどできなかった。ほんのちょっと嫌がらせをしただけで、それを復讐などと嘯いてやった気になって無理やり自分を納得させているだけだ。


 そんなものだ。世の中は何も良くならないし、悪いことなどしたもの勝ちだ。人間という生き物はきっと、最後の二人になったって利己を優先して相手を尊重することなんて覚えない。


 けれど、それでも。

 ならば良かったのだろう、と魔女は思っている。


 娘のしたことには何の意味もなかった。

 もっと学があれば、権力があれば、国を揺るがすような復讐だってもしかしたらできたかも知れない。けれど娘には、学もなかったし、権力もなかった。


 誰にも、何にも、傷なんてつけられていない。娘のただのちょっとした嫌がらせ、自己満足に過ぎない。


 けれど娘が、意味がなかったということを確認できたのだから、きっと意味があったのだろう。

 娘のすることには意味がなかった。娘には、その無意味を確認し、理解し、納得する段階が必要だったのだ。

 娘が少しずつ感情を取り戻し、表情を取り戻していく姿をこの数ヶ月見守ってきた魔女は、そう納得した。


 思い返している間に、スクランブルエッグはできていたしポトフは温まっていた。やっぱり億劫がって魔法で取り出したお皿に盛り付けながら、庭の方向に眼を向ける。

 娘が生まれてきたことは無意味だったし、娘がしたことは無意味だった。けれど娘が生きることは、決して無意味ではない。これから先の人生で、娘がそのことを学んでくれれば良いと魔女は微笑んだ。






 ちなみに、余計なことだが。


 娘の右目は群青に金の散ったステラアイで、左目は夕焼けのようなグラデーションアイのオッドアイだ。右目のステラアイは帝国の皇族に数代に一度生まれる特殊な能力の持ち主で、左目のグラデーションアイは王国の王族にやはり数代に一度生まれる特殊な能力の持ち主である。

 自分の両目が極めて特殊であることを、娘は知らない。娘が魔女に出会うまでは娘の母が遺した色変えの魔法がかかっていたし、娘が魔女に出会ってからは魔女が魔法をかけ直した。

 この特殊な瞳の持ち主は、将来的にたとえ国主にはなれなくても血統が保護され、どこかのタイミングで帝国の皇太子、王国の王太子と婚姻させて血統を保存する。これによって、特殊な瞳と能力は受け継がれる。

 つまり、すでに娘が逃げ出してしまった以上は、この先の未来で二つの国に特殊な瞳が発現することはもうあり得ない。この瞳によって血統を担保してきた国の当主たちが今後どうするつもりなのかは、魔女のあずかり知らぬところである。


 もう一つ、これもやはり余計なことだが。


 帝国の公爵家は正統な跡取り娘を追い出してしまい入り婿によって簒奪されたために、血統で保護されていた特殊な魔法を使えるものは今後は生まれてこない。

 また王国の公爵家も、素行の悪かったかつての公爵への腹いせに公爵夫人が企んだ托卵が成功しており、そのときに生まれた令息が跡取りになったために現在の公爵家は誰にも気づかれないまま簒奪された状態にあるため、これも血統で保護されていた特殊な魔法を使えるものは今後は生まれてこない。


 この四つの件によって、帝国と王国は少しだけ、ほんの少しだけ、弱るだろう。けれど恐らく娘を含めて誰も気づかないので、これは歴史の流れに埋もれていく事実である。

 魔女はそのことを知っていた。魔女は全知ではなかったけれど、月の光のおよぶところは全て魔女の庭だったので。



 全て全て何もかも、なるようになることである。

悪役令嬢アンチテーゼ第二弾。本当にヒロインが何もかも悪いの? 本当に悪役令嬢が何もかも全部正義なの? って話。に、なっていると良いな! 他のひとの投稿を見て気づいたんですけれど「アンチテンプレ」って良いタグですね。なるほど

ちなみにタグのトゥルーエンドはあれです、乙女ゲームがハッピーエンドにもバッドエンドにもならずトゥルーエンドに着地するなら落としどころはこの辺じゃね? という気持ちです。これは乙女ゲームじゃないですけれど


【追記20241222】

活動報告をUPしましたので紐付けておきます。何かあったり何か思いついたりしたらこちらに追記していく予定です!

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/799770/blogkey/3380320/

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― 新着の感想 ―
月の光の及ぶところ…つまり寝室の男女の営みや出産のあれこれ、夜の闇に乗じて行われた惨事はすべて、魔女が知るところである…ということですよね。 そりゃ秘密は筒抜けだわ〜〜 高貴な血を幾重にも引いている娘…
>曾祖母は祖母の出産時に亡くなり それでは祖母以前の曾祖母達の話は友達になった妖精にでも聞いたのかな?
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