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第七章 試験終了、そして ③

 陽が傾いて、空は橙色に染め上げられていた。

 僕と柊は面談を終え、試験前に集合した体育館のような待機室で着替えを済まし、常盤城高校の大きな校門を通って外へ出た。


「柊。じゃあ、次会えるのは来年の春だね」

「そうね。神代くんはそれまで、追手とやらに捕まってしまわないようにね」

「痛いところを突くな……」


 だけどそれは問題ない……と思う。

 常盤城への入学が果たせるのだから、恵理子さんも部屋に引き篭もる僕に何も言ってこないはずだ。

 だから僕は、これまでと同じく、外に出歩かなければいい。


 それに。何か対立することがあっても。僕は戦う。

 絶対に、外へ出ないぞ。


「……なんだか、哀れな決意をしていないかしら?」

「な、何のことかな。……あれ、あの二人って?」


 初日の朝、足利と柊が揉めていた売店から出てきたのは、間違いない、小日向と織田だった。


「おー! お二人さん、やっと来たかぁ〜」


 二人は仲良く、味違いの同じアイスを手に、僕たちの元へ歩み寄ってきた。


「小日向、もしかして、ずっと待ってたの?」

「当然やんか。連絡先も交換できてへんし、先に帰ったら多分もう会えへんやん」


 小日向は朗らかに笑いながら、僕と柊へ菓子パンを放り投げてくる。


「あげるわ。ほんのお礼や。おおきに、お二人とも。おかげで、決心がついたわ」

「……本当に、良かったんだね、これで」


 小日向は、僕たちの提案を蹴って、合格を捨てた。

 僕たちから真の解答を知ることもできたのに、それを断ったのだ。


「もちろんや。何も、常盤城に行かな声優になれへんこともないし! おでんちゃんと一緒に、ウチは戦うよ。三年後、お二人が卒業した時にはアニメのメインヒロイン演じといてやるから楽しみにしとき!」


 勝ち気に白い歯を見せて笑う少女は、「おでんちゃんはやめろって言うとるやろ」と織田に首を極められる。

 そう言う織田も、少し楽しそうだ。

 きっと彼女らは、何があっても努力を重ねて、夢へ向かって走り続けるだろう。


「あたしからもお礼を言わせて。この子、さっき()うてからやけに元気やねん。あたしや佐藤の仇を討てたって誇らしげや。変なとこで自信のない子やったから、これでもっとトップ声優に近づけた。ほんと、ありがとうな」


 織田の表情も、憧れの高校を不合格になったとは思えないほど清々しい。

 二人にとって、これはきっと、合格よりも価値のあるものなんだ。


「ほな、ウチらは行くで。お二人なら、きっとこの高校でも上手く行く。頑張ってや〜」


 言って、彼女らは歩いて去っていった。関西から来た二人は、電車から新幹線へ乗り換えるのだろう。

 僕たちは用意された番号に電話をかけ、タクシーを呼ぶ。

 やがて、ロータリーにタクシーが一台やってくる。二台目は少し遅れてやってくるようだ。


「先に乗っていいわよ、特待生くん」


 どちらが乗るか僅かに逡巡したが、柊が譲ってくれた。


「あはは……なんかそう言われると悪い気はしないね」


 僕たちの前に停車したタクシーは、バッと後部座席のドアが開く。

 僕はカバンを放り込み、そのまま車内へ乗り込んだ。


「じゃあ、元気で。僕は頭を鍛えて入学に備えるよ」

「運動もしておくのよ。半年も引きこもっていると、体に毒だわ」

「筋トレします……」


 バタン、と扉がしまった。

 夕陽を浴びながら、柊はほんの少しだけ笑って手を振ってくれた。

 銀色の髪を鮮やかに照らし出すその様は、あまりにも幻想的だった。


 僕は、暖かい輝きに満ちた彼女へ手を振り返す。

 その姿は、だんだん小さくなって、ついに見えなくなった。


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