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第六章 叛逆の四日目 ⑪

 柊が足利のコテージをピッキングし、僕は足利がやってくるまでその中で待機していた。

 悪魔としての振る舞いの強制を取り消された天使、フェリスと共に。


『ねぇミツキ、さっきの件ってフェリスのことだよね?』


 フェリスは、空中であぐらをかくようにふわふわ浮きながら話す。


『ホームズちゃんに言ってた「当てがある」ってヤツ』

「よくわかったね」

『あのタイミングで口を濁すとしたら、それしか考えられないだろう。それで、何をして欲しいんだい?』

「どのくらいだったら、手伝ってくれるの?」


 フェリスを取り巻く悪しき呪いは無くなった。

 だけど、僕にかかった『常盤城高校への特待生入学』『主席卒業』の呪いはまだ継続中だ。

 呪いの当事者に、どれだけ手を差し伸べられるのか。そこの尺度は知らないままだった。


『まず、初めにはっきりさせておこうか。フェリスは天使だ。心の底から、みんなの幸せを願ってる。……だけど、全員が幸せな完璧な未来なんて作れないことも、承知してる』

「現実的な天使だね……」

『一人の幸せは、翻って誰かの不幸になりかねない。だからフェリスは、安直に人間へ手を貸すわけにはいかないんだ』


 わかっていたことではある。

 フェリスのような超常な存在がほいほいと人間の欲望を叶えていては、世界は簡単に破綻する。だから縛りは存在するし、きっとその力に限度もある。

 きっと、ルールのようなものがあって、フェリスはそれに則っているはずなんだ。


『お察しの通りだよ。そのうちの一つが「三つの願い」。キミには呪いになってしまったけど』


 願いの上限。数に限りを持たせることで、際限なく願いを叶えることの予防。


『そしてもう一つ。人間が説明できない現象や、一方的に歪みを生じさせる事象を引き起こすことはできない』

「……例えば?」

『えー、想像力を働かせてくれよ。ぱっと見でできないことは、大体できないよ。生身で空を飛ぶとか、無限に使えるクレジットカードを作るとか、かめはめ波を撃つとか』


 物理学を無視する飛翔、システム上あり得ないカード、この世界に存在しない異能。

 ふわっとした基準ではあるけど、なんとなくラインはわかった気がする。

 要は、現実の延長にあるような願いしか叶えられないということだろう。


『そして最後に。これが一番重要なんだけど……』


 フェリスは念押しするように、低い声で告げる。


『フェリスが協力したいかどうか、だね』

「なんだ、そんなことか」

『なんだってなんだい!? フェリスにだって心はあるんだ! その辺り気を遣ってくれないと困るよミツキ!』

「いや、だって、心配ないと思って」


 僕は、彼女の眉間を指で小突きながら、


「フェリス、嬉しそうじゃないか」

『……、ふふふ。まぁね。キミにはものすごくお世話になった。何かお礼らしいお礼をしたいに決まってるじゃないか。……でもね、ミツキ。だからって、フェリスが尻尾を振ってキミの命令を聞くと思ったら大間違いだよ。もう一つ、対価が欲しいな』


 ニヤニヤと。意地の悪い笑みを向けてくるフェリス。

 察した僕は、小さなため息を吐いた。


「……ご飯か」

『ご名答! さすがだねミツキ!』

「わかったよ。周りに人がいないタイミングでは、君に三食を提供する。難しい状況でも努力する。……あと、明日、君に食堂に売ってたお肉でもご馳走するよ」

『わっしょい! 決まりだね!』


 フェリスは喜びのあまり四肢を投げ出す。

 その様は、とても天使とは思えなかった。


『あ、でも、フェリスが手伝うのは今回限りだからね。ピンチになったら助けてくれるドラえもんと思わないこと』

「わかってるよ。今後も君に協力してもらうときも、相応の対価を払う」

『……性格が悪いね、ミツキは』


 可愛らしく口を尖らせながら、フェリスはベッドにストンと落ちた。

 仰向けで思いっ切り伸びをし、そして問う。


『……で、何をして欲しいんだい。青髪クンのメッセージ? とやらを止める策だったかい』

「そうだね。やることは単純だ」


 僕は、スマホを取り出す。

 メッセージの画面を開いて、フェリスへ見せつけた。


「この画面が、メッセージだ。足利がこの画面を開いている時――彼の周りだけ、電波障害を起こしてほしい。……豪雨では、電波が通りにくいって言うからね」


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