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第六章 叛逆の四日目 ⑥

 豪雨が屋根を叩く音をBGMに、食堂で昼食を胃に流し込む。

 足利が特待生になる以上、幼馴染四人のベルノは失格にならない範囲で自由に使える。

 だから彼らはベルノを出し合い、豪華な食にありついていた。


 とはいえ、調理場はないため、出来合いのものに限られてくる。

 それでも、ローストビーフや寿司は売っているし、牛すじカレーなんかもレンチンすればご馳走だ。


 大抵の受験生も残り一万近くのベルノは残されているはずだが、散財する者はほぼいないようようだ。

 解答の契約を結んだとはいえ、また徴収される可能性もあると考えているのだろう。


「なぁ! ちょっと聞きたいことあんねんけど!」


 突如、優雅なランチタイムに水を刺してきたのは、よく通る声の関西弁。

 昨日沈めた織田紫音の隣で喚いていた、小日向とか言う女だ。

 そいつは足利の真横から、明らかに場違いな大声を浴びせてくる。


「おでんちゃん……紫音ちゃんのことやねんけど!」

「……少々、声のボリュームを落としてはいただけませんかね。不愉快です」

「やかましい! ウチちょっと噂で聞いたんやけど。紫音ちゃんが失格になったのって、あんたらのせいなんか!?」


 ビク、と。食堂や購買にいる何人かの受験生が目線を上げる。

 この無駄にでかい声のせいで、室内にいる人間には少なくとも会話が筒抜けだ。


「それは謂れなき濡れ衣ですよ。失敬な」

「だったらッ! なんであんたらと一緒におった佐藤くんも一緒に失格になってんの!? おかしいやんか!」

「確かに状況証拠で見れば怪しいのはボクたちかもしれませんね。しかし――」

「あんたら! ほんまに受験生みんなを救う気あるんか!? なんや悪巧みして、自分らだけ勝ち上がろうとしてるんやないか!?」


 小日向の大声に引かれたか、数人の受験生が外から食堂に入ってくる。

 この女の声は、それほどやかましく、そしてよく通る。まさか、外の人間まで呼び寄せてしまうとは。


(……織田紫音と小日向陽毬。そうか、声優志望でしたね)


 哀れなほど、無駄な一芸だ。


「みなさん、食事は終わりましたね。では、羽虫が喧しいことですし、今日はコテージに戻ってくつろいでください」


 足利が立ち上がると、幼馴染の四人も昼食のゴミを持って席を立つ。

 そのあからさまな拒絶の意に、小日向はさらにヒートアップ。


「なんっ、逃げるんか!? ほな、やっぱり契約なんか守る気もなかったんやな!」

「足りない脳みそでもう少し考えることです。結んだ契約に対して不誠実な行動をすれば、それは詐欺か、それに類する罪に当たります。それは、法に触れる行為。失格となる。だからこそ、みなさん契約に応じてくれたのですよ」


 虫の死骸を払うように、興味のない目で足利は小日向をあしらった。

 ゴミを処理し、食堂を出る。外は嵐のような暴風雨だった。風向きの関係で、大きな(ひさし)の下はほぼ濡れていないが、飛び跳ねた霧のような水滴が顔をわずかに濡らす。


「――何の用でしょうか」


 そして、そんな(ひさし)の下で、長い銀髪の先からぽたぽたと水滴を落とす少女へ目線を投げた。


「忠告をしようかと思って」


 その釣り目がちな瞳を敵意に沈める少女――柊雨凛が、冷たい声で言い放つ。


「正直、予想外だったわ。セーフティゾーンは四枚からだったのね。ここまでは素直に、あなたを認めてあげる」


 柊は、妖しく光る瞳を細めて「だけど」と続けると、


「詰めを誤ったわね。この作戦は、何としても私たちに悟られてはならなかった。利便性など度外視して、未登録の北ブロックを集合場所とすべきだった」


 確かに、中央ブロックを契約の場としたのは、空模様が怪しかったのと、北ブロックまで歩く労力を惜しんだためではある。

 だが、対策は打った。小野寺を神代のコテージで待機させる。 

 結果奴らはまんまと騙されて、足利が大人数と契約する時間を許した。


 その後になって事実に気づこうが、後の祭りだ。動き出した流れはもう止まらない。

 現に足利は、すでに百万ベルノを手中に納め、注文を済ませている。逆転は不可能だ。


「そうですか。でしたら、精々頑張ってください」


 足利は面倒だとばかりにひらひら手を振ると、負け惜しみに余念がない愚図を視界から消す。


「待ちなさい」


 だが、左手首を柊に掴まれた。


「離せ」

「女の子に腕を掴まれたのでこれは暴行です、って言うかしら?」

「煽りだけは一人前ですね。もう諦めなさい」


 足利は手首を捻り、柊の掌握を外す。武道を齧っている足利には、この程度造作もない。

 傘を差し、猛るような雨の中、コテージへ向かった。


「……ねぇ、信臣。ほんとに大丈夫なんでしょうね」


内海梨花が足利の傘に入り込み、肩を寄せて強気に問うてくる。


「あの柊って女……なんか企んでるでしょ」

「何を企むことがありますか? ボクには思いつきませんね」

「だってアイツ、小野寺の件があるじゃん。今信臣が持ってるスマホ、ほんとに信臣の?」


 柊は二日目、何らかの手段で小野寺とのスマホを入れ替えて東ブロックの解答を獲得してみせた。

 十中八九スっている。ならば警戒しておくに越したことはないが……。


 一応足利は、自身のホルダーからスマホを取り出し確認する。


「問題ありません。このスマホのアカウントはボクです。解答を注文した履歴も残っていますし、ベルノも百万キチンとあります。細工されてはいませんよ」

「……だったらいいけど」


 なおも心配そうに眉間に皺を寄せる彼女の肩を、足利は乱暴に抱く。


「それでも足りないと言うのなら、解答を受け取るまでボクのコテージにいなさい、梨花。その場合、もうアナタは朝まで帰れませんがね。あぁ、これを言わせたかったのですか?」

「なっ……! ふざけんな、このバカ信臣!」


 梨花は言葉では拒否しつつも、足利の腕はほどかない。 

 後ろからは「いーよなー二人は。俺も彼女欲しー」と小野寺の軽薄な嘆きが聞こえてきた。


 程なくして、各々がそれぞれのコテージへ別れていく。

 二人きりになった足利と梨花も、足利のコテージに到着した。


 そして、気が付いたのだ。

 コテージ前の、玄関の違和感に。


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