第六章 叛逆の四日目 ⑤
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中央ブロック東寄りの広場。
幼馴染三人とともに座る少年――足利信臣は、イラついていた。
頭の悪い受験生の連中が、いつまで経っても残りの受験生を捕まえてこないからだ。
足利の契約書には、大きな前提が存在する。
それは、当然だが、彼が解答を七つ持たない限り、契約した受験生はその恩恵を受けられない、ということ。
つまり、足利はベルノを百万以上集める必要があり、
それには、計画に賛同する人間が少なくとも五〇人は必要だということ。
(……だというのに)
昨日から今朝にかけてネズミ算式にメッセージを回し、集まったのは足利たちを含めて四五人。
あと一〇人、連絡が取れていないか、提案を拒否した輩が存在するということだ。
だから、集まった低脳たちに指示した。
残りの受験生を捕まえてここに連れてこいと。
そうでないと、アナタたちも死にますよ、と。
蜘蛛の子を散らすように愚図どもは残りカスを探しに行ったものの、進捗は芳しくない。
九時にもなって、契約者は一人しか増えていないのだ。
空は、さっきまでとは打って変わって曇り空だ。
気温が上がらないのは助かるが、雨が降り出しかねない濁った空模様にまでなってきている。
「……チッ。行きますよ」
幼馴染三人へ声をかけ、足利は中央棟へ。
神代のコテージに潜伏させたままの小野寺も呼び出し、食堂で待機することにした。
内海梨花へ指示し、知りうる限りの低脳たちへ、待機場所の変更を通達させる。
奴らには雨の中も走り回らせる。でなければ合格が絶たれるのだから、文句を言いつつも従わざるを得ないだろう。
(彼ら二人は、どう動きますかね)
奴らの立場になって思案してみるも、ロクな案が浮かばない。
当然だ。こうなるよう、この場を作り出したのは彼自身なのだから。
神代と柊ができるのはせいぜい、自滅覚悟で残りの九人へ契約を結ばないよう持ち掛けること。
だがそれは無意味だ。それによるメリットが一切ない。全員が不合格になるだけだ。
問題なし。
あとは、愚図達がそれ以上の愚図を足利の前に引きずり出せば、ゲームセットだ。
「……降り出したわ」
ショートボブの少女――内海梨花が窓の外を見て告げる。
雨具は、傘もレインコートもコテージに備え付けられていた。足利も空を見て折り畳み傘を持ち出している。
東は朝日が見えるほど晴れていたが、天気は基本的に南西から流れてくる。そちら側は曇天だったのだ。
探し回っている奴らがずぶ濡れになろうが、予見しなかった愚図が悪い。
雨は、やがて本降りに。台風でも迫っているような荒天となっていた。
と、ここで。
軽やかなピアノの音が食堂のスピーカーから流れ始めた。
『試験中の皆様にお知らせします』
初日にルール説明をした、赤川とかいう教師の声だった。
『ただいま、雨が降り出して大変足元が悪くなっております。皆様、怪我のないよう、注意して試験を続行してください』
食堂の外からも、降り頻る雨の音に混じって同じ内容が聞こえてくる。
この試験会場となっているビオトープ全域で放送されたのだろう。
「……くははっ」
最高だ。この程度の悪天候で、試験の中断などという甘い決断は下されないらしい。
これでこそ、常盤城だ。確かな野望を抱いた選ばれし勝者が通う高校だ。
門限の設定や、腕時計によるバイタルサインのチェックなど、やたら過保護な部分が気になったが、やはり真の姿はこっち。
一度定められたルールは、何があっても揺るがない。
それでこそ、世界で才能を発揮するような、逆境を跳ね退けられる人材足るかを試せるというものだ。
そして、逆境を逆境でなくす人材は、そのさらに上のカーストに位置する。
足利信臣は、自身がそれであると信じて疑わなかった。
それから、ずぶ濡れになった愚図どもが受験者を一人、また一人と突き出してくる。
正午になった時点で、足利の所持ベルノは百六万となった。
メッセージで北ブロックの解答を注文。
これで、彼の合格は確定となった。




