第六章 叛逆の四日目 ③
腕時計が六時を指した瞬間、柊と共に僕のコテージへ向かった。
足利は確実に動き出している。
だったら、何か行動をする前に彼へ『お互いの解答を交換する契約書』を突きつけるべく接触したい。
だけど僕達は彼のコテージの場所を知らない。
だから、僕のコテージで朝を迎えたはずの小野寺の後を尾けて、連絡を取り合っているであろう足利のところへ向かおうとしているのだ。
僕のコテージが見えた。
玄関前で待つわけもいかないので、二つ隣のコテージの影に隠れるようにして様子を伺う。
もちろん、どこかから足利グループが出てきても見逃さないよう、可能な限り周囲にも気を配りながら。
だけど。小野寺は一向に僕のコテージから出てこなかった。三〇分、四〇分経っても現れない。
他の受験生たちは、ポツポツと活動を開始し始めているというのに。
誰も彼も、陽の登り始めた方角へゾロゾロと歩いていく。
「……そうか。みんな柊の解答を探すために……」
柊が初日に手に入れた解答。彼女はまだ『持ち主登録』をしていない。
システム上発見されていないことになっている最後の解答を求めて、所有者でない受験生が森に入れる七時前から活動を始めるのは当然のことと言える。
だけど、足利グループにはそれがない。
だから、早起きせずのんびりしていてもおかしくはないけど……
「何か、しっくりこないわね」
柊の懐疑的な声に、僕も頷いた。
「同感だよ。なんだか、ちぐはぐだ」
足利という男の抜け目のなさ。リーダーとしての資質。素行はともかくとして、彼の能力は傑出している。
そんな彼が、コテージから出られる六時前に解答の『持ち主登録』をわざわざ完了させておいて、朝から動きがないなんて不自然だ。
「……いやな感じがするわね」
柊は指を噛む。
ここで小野寺の監視を続けていていいものか、思案しているのだろう。
だけど、足利へ繋がるヒントはここにしかない。
ここを離れて闇雲に探しても、足利が見つかるかどうかは運任せだ。
「……二手に分かれる?」
もう、足利グループの失格にさせるやり方はわかった。
対策は単純な話、もうコテージに戻らなければいい。
だったら、二人一組で行動する必要性は薄い。
「それでもいいけど……何かしら、この違和感……」
柊は、この状況に何かが引っ掛かっているようだった。
時刻は六時五〇分。受験生はどんどんコテージから出てきている。
彼らは最後の解答を取るべく、朝日を目指すようにぞろぞろと歩いている。
その顔は、不安そうだ。あと一日ちょっとで解答が確保できるのか、心配しているのだろう。
……心配?
「確かに、変だ」
彼らは、解答を一枚も持っていないはず。
そして今日は四日目だ。
僕が彼らの立場だったら、必死な顔をして所有者を探すべく走り回るだろう。
まだ森へ入れる時間でなくとも、所有者と話をすることはできるのだから。
少なくとも、「これで大丈夫かな」みたいな、静的な不安を抱いている場合じゃない。
これは、一体。
不安になって、スマホを開く。『リスト』をもう一度確認した。
やはり何も変わっていない。昨夜まで未登録だった、北と南のマス目。今はもう、南のマス目は『済』の赤文字で潰されている。残るは、北ブロック一つだけだ。
そこで。チカッ! と目に光が飛び込んできた。
登り始めた朝日が画面で反射して、僕の目を焼いたのだ。
僕は思わず顔を背け――そして気がついた。
――これは、まずい。
「……柊。わかった」
「何がかしら」
「違和感の正体だよ!」
僕は柊の上腕を掴み、無理やり立ち上がらせる。
そのまま彼女を引っ張って、全力で走り始めた。
「ちょっと神代くん! どういうこと? 説明して!」
「単純なことだったんだ!」
昨日も一昨日も。朝から解答の争奪戦をしていたせいで思考が固まってしまっていた。
所有者でない受験生は、七時になった直後に森へ入り、まだ見つかっていない解答を探すものだと。
でも、それだとおかしいのだ。
だって。
「みんなが歩いている方向……東じゃないか!」
「……!!」
「おかしいでしょ! 解答を探しにいくなら、みんな北へ向かうはずなのに!」
柊が『持ち主登録』をせずに隠し持っている解答は、北ブロックのもの。
当然、それを求めて彼らが向かうべきは北だ。
しかし実際には、朝日に吸い込まれるように皆一斉に東へ向かっている。
つまり彼らには、北ブロックより優先する目的が東にある。
それが、おそらく、足利の一手だ。
気づくのが、あまりにも遅れてしまった。




