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第四章 邂逅の二日目 ⑩

「――だから、私はあなたとこのゲームをクリアしたかった。もし神代くんが所有者じゃなくても、きっと何かと理由をつけて行動を共にしていたと思うわ。幸いなことに、試験前に購買で因縁もできたし」

「因縁って……」

「北ブロックの解答を確保した後、あなたの元へ向かえたのは、実はそれほど難しくない。途中まではあなたの後ろに着いていたしね」

「そうなの!?」

「ええ。あなたが北東ブロックに飛び込んだのを見届けて、隣の北ブロックで解答を見つけた後にすぐさま合流に向かった。だからあれは、偶然なんかじゃないの」


 柊は解答のヒントを簡単だと言った。

 だから、僕が解答を見つけたあの場所に駆けつけることができたことにも頷ける。


 柊は、それほどまでに僕に恩義を感じている。

 それが、途方もなく申し訳なかった。


「……そうだったんだ。ごめんね。覚えてなくて」


 それも、顔を覚えていなかったとか、そう言うレベルの話ではなくて。


「僕は、一年以上前の記憶がないんだ」


 見知らぬ少女の手を取って走った記憶そのものが、僕の頭には存在していないのだ。

 僕の発言を受けて、彼女の表情が少し強張る。いや、確かに悲壮の色が浮かんでいた。


「それは……悲しいわね」


 絞り出すように。柊はそっと告げる。

 気を使わせてしまった。


「いや、大丈夫だよ。それよりも、僕は嬉しいんだ」

「嬉しい?」


 柊の瞳が、意外そうに丸まる。


「うん。……僕、ずっと怖かったんだよ」


 僕は、一気に水を飲み干す。


「一番古い記憶は、ベッドの上。普通のベッドじゃないよ。手術台だ。身体には縫合の痕があって、耳の後ろにもある。明らかに体を、頭を、弄られてたんだよ」

「……、」

「だから僕は逃げた。今は恵理子さんが経営する養護施設にお世話になってる。だけど昨日言った通り、怪しい人たちが常に僕の動向を追ってる。……だから、怖かったんだよ。僕は、あの組織とどんな関わりを持っていたのか。まさか、悪事に手を染めてなんかいないか。……そんなことを考えちゃってさ」


 だから僕は、外に出たくなかった。

 謎の組織に狙われているから。

 そして、真実を知るのが怖かったから。


 空になったグラスを見つめる。

 水は無くなれば注げるけど、僕の頭には、失った記憶の代わりに詰め込めるものはなかった。


「でも、柊のおかげでちょっとスッキリしたんだ。きっと、前の僕も悪人なんかじゃない。だって、女の子を助けられるくらいなんだから……へへ、前の僕も、なかなかやるじゃん」


 思わず、笑みが溢れた。

 何も解決なんかしていない。そんなことはわかっている。


 だけど。心の奥底にあるしこりは、ぽろっと剥がれ落ちた。それで十分。

 柊に信用を預けるには、十分過ぎた。


 それから、僕たちはもう少しだけ話をした。

 明日は早めに起きて準備すること。好きなカップラーメンの話なんかまでした。

 そして、二〇時を回る前に、柊は自分のコテージへ戻って行った。


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