第四章 邂逅の二日目 ⑧
『おかえりだよ、同棲してる美少女にご飯も与えてくれない穀潰し。ふん、今日も今日とて女連れか。いい気なもんだね』
僕と柊がコテージに戻ると、またも斜め上の発言と共にフェリスが出迎えてきた。
「面倒なことになったね、柊」
僕は備え付けのグラスで水道水を汲み、一つを柊に渡し、壁にもたれて座り込んだ。
「解答に関しては、それほど悲観視していないわ。もちろん、彼らに接触できた方が、選択肢が増えていたのはその通りだけれど。三枚目の解答を手に入れておいて、本当に良かったわ」
「明日から、どう動けばいいんだろう」
「簡単よ。明日は、二枚の解答が復活されるから、その獲得ね」
「……えっ!?」
動揺する僕をよそに、柊はなんてことないようにグラスへ口を付ける。
「もしかして、あの二人が失格にさせられるのか!?」
「可能性としては八割といったところかしらね。あの足利くんが、部外者を簡単に身内に引き込むとは思えないわ。……まぁ、何かしらの方法で忠誠でも誓えば話は別かもしれないけれど。これが残り二割よ」
織田とメガネの佐藤、二人の身を案じる余裕なんかない。
そんなこと分かってはいるけど。
失格へ続く道を今も歩かされているかもしれない二人を――そして織田に付いていった小日向を思うと、どうしようもないやるせなさに襲われる。
だって、僕だって他人事ではなかったから。
初日に、柊が僕を見つけていてくれなかったら、死んでいたのは僕の方だったのだから。
「……言っておくけど、こっちについてはレッドゾーンよ」
思考が沼に沈み始めた僕へ追い討ちをかけるように、柊は告げる。
「これで明日、あの二人が沈めば、足利くんの敵対勢力は私たちだけよ。……次の標的は、確実に私たち」
「……!」
背中が急速に冷えていく。
ついに喉元まで届いた死の気配に、僕は冷や汗が止まらなかった。
「まぁそれは今に始まったことじゃないけれど。足利くんの中にある歯車が少し違えば、先に私たちが始末されていた可能性だって十分にある。……初日に、桜崎さんを葬ったみたいにね」
「……せめて、方法がわかれば」
「現状では、可能性が多くて絞り切れないわね」
ふぅ、と大きく息を吐く。グラスの水が冷たく感じた。
血の気が失せている、と言うことだろう。
「……ありがとう、柊」
ふと、そんな言葉が転び出た。
柊は、僕の意図を計りかねているようで、「何がかしら?」と返してくる。
「いや、最初に僕に声をかけてくれてさ」
「あぁ。でも、それに関しては私の利も大いに絡んでるから、恩義を感じる必要はないわよ」
「……とは言ってもさ。運が良かったよ、僕は」
手を組んだことは確かに、お互いにメリットがあったけど。
足利の標的にされるのが最後だったのは、柊と二人一組で行動していることが大きかっただろう。
だって、リストに顔と名前が公開されているという条件は織田や佐藤と同じなのだから。
「……運が良かった、ね」
柊が、目を伏せてグラスへ口をつける。
いやにしんみりとした声色だった。
「実は偶然じゃない、と言ったら?」
すぐ後。長いまつ毛の奥に覗く憂いに塗れた瞳が、僕の目を射抜いた。
「……どういうことだよ」
「神代くんは、覚えてないだろうけど」
柊は、どこまでもまっすぐな口調で、
「私たち、会ったのはここが初めてじゃないのよ」




