第四章 邂逅の二日目 ⑥
「ウチは、おでんちゃん……織田紫音の親友やねんから!」
柊の眉が、ピクッと動いた。
やがて、クールダウンするように速度を緩めていく。
「……織田紫音? 西ブロックの解答所有者の彼女かしら?」
「いかにも! ウチとおでんちゃんは、一緒に声優目指してる幼馴染やねん!」
僕は、柊と目線を合わせる。
彼女は、ほんのわずかに首肯した。
この少女は、嘘をついていないようだ。
「初日に協力して解答を一枚手に入れたはいいけど、もう手詰まりやねん。お二人さん、おでんちゃんと会って手を組まへん? 悪い話やないと思うんやけど」
確かに、織田紫音には元々接触しようと考えていた。
この少女なら連絡も取り合えるだろうし、探す手間が省けて助かる。
織田紫音が足利と繋がっていないかは、その時判断すればいいだけだ。
「柊。構わないよね?」
「……いえ、少々質問させてもらうわ」
柊は探偵のように顎に手を当て、続ける。
「織田紫音さんと西ブロックの解答を手に入れた時の状況を教えてくれるかしら?」
「……へ? 何や、その質問」
「いいから、答えて」
「何や、取り調べされてるみたいやわぁ」
少女は、ポリポリと頬をかきながら、
「えっと、まずウチらはスタートの南西ブロックは諦めて早々に別のブロックに行くことを決めた。競争率を下げたくてな。で、中央か南ブロックの方に走っていく人らが多かったから、ウチらは西ブロックを目指したんや。
で、解答のヒントを見る感じ、外部との境――金網に絡まってそうな気がしたからウチらは金網に沿って走った。で、ようやく封筒を見つけて、肩車して何とか取った、って感じやな」
少女が話し終えると、柊は微動だにせず「……なるほど」と呟いていた。
「……で、これはどんな質も「続いて、織田紫音との関係性について簡潔に述べてくれるかしら」何やのこれ!?」
一方的に話を振られ続ける少女は頭を抱える。
柊は、凛とした視線を崩さなかった。
「……むぅ、分かった分かった。ウチとおでんちゃんは親同士が仲良しでな。小さい頃から一緒に遊んでてん。で、ある時家族ぐるみで声優さんの公開収録イベントに行ってな、その時の声優さんの輝きったらもう! その日からウチとおでんちゃんは夢が決まった。絶対ウチらも声優になるんや、って二人で一緒に走ってきたってわけよ」
「……分かったわ。ありがとう」
柊は、ようやく何かに納得したように目元を和らげた。
「話に具体性がある。そして、嘘もついていない。罠の可能性は、極めて低そうね」
「だから言うとるやんか!」
「悪かったわね。でも、初対面の人間を簡単に信用できるはずがないこと、あなただってわかるでしょう?」
「……それは、まぁ、そうやけど。まぁえっか! ほなら、おでんちゃんに連絡してみるな!」
少女は嬉しそうに、スマホ上で指を滑らせている。
メッセージで織田とやりとりしているのだろう。
「……柊は、さすがだね」
「何がかしら?」
「いや、勢いに流されず、しっかりこの子を疑ってさ」
元々織田紫音との接触を目指していたから、僕はこの子の提案にすぐ乗っかってしまいそうだった。
万が一の可能性を無視して。それは、怠慢に他ならない。
「まだ仲間になるかは未定だけれど、信用に値するかくらいは判断しておかないと気持ちが悪いのよ」
柊は、汗で首筋に張り付いた髪をかきあげ、
「世の中には軽々しく『信じる』だなんて口にする人もいるけれど、あんなのただの思考放棄よ。きちんと知りたかったから、納得のいくまで追求したの。あの子のことを信じるためにね」
そう言う彼女は、やはり探偵のような職業が似合いそうだった。
鋭い観察眼や、手先の器用さ。
それらよりも、情や雰囲気に流されず自分の信じた方法で物事を進める信念のようなものが、彼女を形作る芯なのだろう。
「おでんちゃん、食堂で待ってるって! ほな行こか!」
言って、少女は中央ブロックへ歩き始めた。
「……ていうか、何で『おでんちゃん』なの?」
「え〜? 織田の『田』を音読みしたら『おでん』になるやんか。あ、そういえばウチって自己紹介してへんよね? 小日向陽毬言います〜。よろしく!」
勢いがすごい少女――小日向は、名前の通り太陽みたいに笑った。




