第四章 邂逅の二日目 ④
「柊……助かったよ。さすがだね」
僕は、スマホについた砂を払う彼女のそばに寄る。
「それにしても柊……不正行為を赦さないって言ってる割には……なんというか、その、手癖が悪いんだね」
「そう? 筋が通っていないことは一つも言っていないつもりだけれど」
すん、と顔を逸らしながら、柊はスマホをホルダーにしまった。
「不正行為と言うのは、発覚するから不正行為なのよ。必要な時に必要な細工を行い、それが隠し通せたのなら、それは立派な技術……私は、そう考えるわ」
食堂でマッチョマンに嘘をついた時も。
小野寺のスマホをすり替えた時も。
柊の行動は、誰にも咎められていない。
嘘がイカサマかどうかはケースバイケース……それはつまり、そういうことだった。
「私が赦せないのは、浅い思考で手を出した美しくない反則や、秩序を乱す利己的な行為よ。私の技術を、その辺のチンピラと一緒にしないでもらえるかしら」
常盤城は、あらゆる分野におけるトップを目指す学生が集まる学校。
その大半が、その道での一流の技術――一芸を備えている。それは柊も同じだ。
彼女の場合は、鋭い観察眼や、秀でた胆力。そして、手先の器用さ、ということだろう。
警察か探偵か。そういった類の進路を目指す柊は、それを『技術』として習得しているのだ。
「とにかく、無事に解答を三つ得ることができたわね。じゃあここからは昨日打ち合わせた通り、他の所有者へ接触を――」
「あー、やはり彼らだったのですね」
ふと、低い声が耳に届く。
僕と柊は、声の発生源をばっと見た。それは、小野寺が去っていった方向だった。
「アナタが北東ブロックの所有者だって表示された時から睨んでましたよ、神代光輝さん。昨日の売店で突っかかってきた二人が、手を組んでいるのではないかとね」
それは。この試験で最も会いたくない男だった。
小野寺の所属する、待機室で一番騒がしかったグループ。そのリーダー。
柊とも因縁のある、青髪の男。
彼は、小野寺を含む二人の取り巻きを引き連れて、僕たちの前に悠然と現れた。
「そして今、確信に変わったわけですね。アナタ方が組んでいることも、北ブロックの未登録解答を持っているのが、銀髪の彼女だということも……ね」
「そう。じゃあ、やっぱりあなただったのね」
柊は切れ長の瞳を青髪の男へ向ける。
「予想はついていたけれど。南ブロックの解答を隠し持っているのは、あなたね」
柊と同じく、QRコードの読み込みによる『持ち主登録』をせずに、解答を所有している者ということだ。
柊の言う通り、昨日の時点である程度その可能性は考えていた。
昨日確認した時点で『リスト』に載っていた所有者の顔と名前。北と南ブロックを除いた七つのうち、気になる顔が三つあったためだ。
その三人は、青髪の男の周辺にいたグループのメンバー。小野寺を含む、五人チームの顔ぶれだったのだ。
そして小野寺は先ほど、何の前触れもなく柊を『未登録』の保持者と推測していた。
それはつまり、彼の近くでも未登録の解答を持っている者がいたと言うこと。
それらは、南ブロックの解答所有者は青髪の男なのではないか、と推測するには充分過ぎた。
「その通りですよ。足利信臣と言います。以後お見知り置きを」
足利と名乗った青髪の男は、隣で萎縮している小野寺の肩へ腕を乗せ、自身のスマホへ目線を落とした。
「ふむ……アナタ、柊さんと言うのですね。お優しいですね。ベルノを抜かずに小野寺さんを返してくださるなんて。雑魚風情が情でも湧きましたか?」
「あの場で彼を失格にしてしまうと、持ってた私のスマホがどうなるかわからないでしょう。壊されるかもしれないし」
突き放すように柊が返すと、足利は心底おかしそうに笑った。
「くははっ、リスクヘッジですか。人間、自棄になったら何するか分からないですからねぇ」
足利は、くっくっくと笑い続ける。
ひとしきり笑った後、柊を見据え、
「潰す」
「やれるものなら」
柊と足利は、互いを睨み付け合った。
それはさながら、巨大な毒蜘蛛と歴戦の妖狐が向かい合うようで。
二人の間に、音のない火花が弾けた。




