表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/61

第三章 怒涛の一日目 ⑧

 中央棟から徒歩二分。

 受験者が夜を明かすコテージが集合した区画にたどり着いた。


 ものすごい数だ。受験生一人一人に用意されているとなると六〇棟はあるのはわかっていたが、実際の数は明らかに一〇〇を超えている。

 これも、きっと、校内での試験に使用できるよう、予め建てられているものなのだろう。


 コテージの表札には名前はなく、受験番号が記されているのみだった。

 おそらく、解答所有者のコテージへ他の受験者がパパラッチのように集まってしまうことへの対策だろう。

 リストで所有者の顔と名前を公開している割には、良心的な設計だ。


 試験用のスマホから自分の受験番号を確認し、当該番号が記されたコテージへ。

 腕時計から鍵を取り出し、扉を開けた。


「おぉ〜、コテージだ」

『なんだいその感想。語彙力どこかに捨ててきた?』


 フェリスは言いながら、宙を滑るようにしてベッドへダイブ。『光輝クンのせいで疲れたよ』なんて言ってだらけている。走ってないくせによく言うよ。

 

「ふーん……。一人暮らしができる程度には物品が揃ってる、って感じね」

 

 遅れて、柊が入ってくる。

 彼女は入るなり、キッチンの扉を開け閉めしていた。


 流し台、電気ポッド、カセットコンロ、冷蔵庫、電子レンジまで。

 確かに、これだけあれば、普通に人間が不自由なく暮らしていけると思う。

 柊は電気ポッドに水を入れ、スイッチを入れる。そのまま、買ったばかりのカップ麺の封を開け始めた。


「悪いわね。お腹が空いてて」

「別にいいよ。食べながら話そう」


 僕は手を洗った後、鍋に水を張り、カセットコンロへ載せ火にかける。

 試験終了まで、一日あたり袋麺一食だ。大切に食べないと。


「さて、神代くん。これからどう動くべきだと思う?」


 柊が、カップ麺へかやくを入れながら問うてくる。


「うーん、大まかに考えてるのは二パターンかなぁ」

「あら、私と同じね。答え合わせしましょうか」

「そうだね。まずは一つ、あの桜崎って子が言った提案を実現するべく動く」


 食堂で彼女が有志を募っていたあの時は手を挙げられなかったが、別にあれは的外れな作戦ではない。

 不安要素さえ消してしまえば、普通に全員合格はありうる話だ。


「具体的には……裏切らないと信頼できるメンバーを七人以上集める……とか?」

「現実的ではないわね」

「うん」


 そう。その『不安要素を消す』という工程が極めて難しいのだ。

 裏切らないという信頼を初対面の人間に抱くなんて土台無理な話だ。

 それこそ、長年同じ釜の飯を食ってきた同級生で五人組む、とかじゃないと話にならない。


 もしくは、絶対に裏切れないシステムを作る。

 しかしこれも、僕には思いつかない。柊も同じなようだ。


「となると、二つ目。解答を三枚持つチームを作る」


 柊が僕を勧誘した理由だ。

 あと一枚。もしくは、解答を持っていてグループに所属していなさそうな者一人。どちらかを手に入れ、解答を三枚独占しているチームとして、交渉の土俵に上がる。

 先ほど食堂で手を組んだ桜崎と佐藤のように、所有者同士が徒党を組むことは容易に想像できる。

 その時、三枚持っている勢力を無視はできないはずだ。


「そうね。初手はそれでいいと思うわ。となると、当分はソロの所有者の見極めと勧誘ね」


 柊は、電気ポッドで沸いたお湯をカップ麺に注ぐ。同時に二つ食べるみたいだ。

 僕も、沸騰した湯に乾麺を投入した。


「そのことなんだけどさ、一つ確認したいことがあって」

「何かしら」

「さっき柊、『捜索フェーズは終了』って言ってたよね? あれってどう言う意味なのかなって気になって」


 スマホを起動する。『リスト』を開くと、やはりまだ、北と南ブロックの解答は誰の手にも渡っていないようで、『済』の赤文字が現れていない。

 所有者の見極めをするより、まずはこの二枚の解答を獲得しに動く方が優先なんじゃないだろうか?


「あぁ、それね。気づいてなかったの」


 柊は、なんてことないように、


「北ブロックの解答を持っているのは、私よ」

「……はっ?」


 改めて『リスト』を確認。

 どう見ても、北ブロックに『済』のマークはない。

 中身を見てみても、例の暗号のようなヒントが書かれているだけで、柊の顔写真や名前はその一切が公開されていなかった。


「ど、どう言うことだよ」

「簡単な話よ。……私は、『持ち主登録』をしていない」


 一瞬理解が及ばなかったものの、合点がいく。

 柊は、茶封筒の裏にあるQRコードを読み込むことによる『持ち主登録』をしていないのだ。


「……それって、アリなのか?」

「強制だとは聞いてないわね。罰則もなし。むしろ、登録するデメリットの方が大きいと考えるわ。だって、そのブロックの解答はもうないと他の受験生へ伝えることになるし、名前と顔も公開される。食堂で神代くん、絡まれてたでしょ?」


 さっき、僕ばかり絡まれて柊がそうでもなかったのは、このためだったのか。


「だけどもちろん、リスクもある。私は解答を持ってはいるけど、正式な持ち主ではない。となれば、万が一紛失して誰かに拾われた場合、おそらく所有権はその人になるわ。もし『持ち主登録』していれば、そんなことはないだろうけどね。拾った人の窃盗(ネコババ)よ」

「……よく、そこまで頭が回ったね」

「ルールは隅々まで把握しておくことよ。そう言うところも、きっとこの試験は見てる」


 解答の封筒を見つけたら、『持ち主登録』をしなければならない。

 そう先入観で捉えてしまうと、この方法には辿り着けない。

 やはり、柊は非常に聡明だ。


「……あれ、てことは待てよ。南ブロックの解答も持ち主がいないっていうのも、誰かが同じ方法で所有を隠してるってこと?」

「おそらくね。ヒントの難易度はそれほどでもなかったし、南ブロックはスタート地点から近いブロック。この時間まで探して見つからないなんて考え難いでしょう」


 ヒントの難易度は高くない、か。耳が痛い。

 柊は、割り箸をパチンと割る。フーフーと吐息をかけながら、醤油ラーメンを啜り始めた。


「だから、捜索フェーズは終了。明日からは、所有者同士の交渉フェーズに移行するわ」

「……なるほどね」


 僕は、乾麺を茹でていた鍋にスープの粉を入れて混ぜる。完成だ。

 器に移すのも面倒なので、鍋から直接食べることにした。


『フェリスの分は?』

『無いって言ったでしょ』


 断言すると、フェリスは再びベッドへ戻っていく。

 翼がしょんぼりと垂れ下がっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ