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第三章 怒涛の一日目 ⑦

「みんな! ちょっと聞いてくれる!?」


 ふと、食堂中に凛とした声が響き渡った。

 反響していて声の主がどこにいるのか分かりにくかったものの、ざっと見渡しただけですぐわかった。

 どの受験生も、大体同じ方向を見ていたからだ。


 取引ルームのある1.5階のようなところ。

 そこに、栗色の髪の少女が立っていた。

 あれは確か、質問お化けの桜崎だ。


「リストを見てもらったら分かるけど、東ブロックの解答を持っているのはあたし!」


 驚いてスマホを確認すると、確かに彼女――桜崎カレンは、解答所有者だった。


「あたしは、みんなと解答を共有したい! でもルールの表面をなぞってるうちは、全員で合格なんてほぼ不可能……だけどあたしは、みんな合格できる余地があるなら、みんなで合格したいの!」


 桜崎は、胸に手を当てて切実な声で叫ぶ。


「だから、協力してほしい! 解答所有者のみんな! 解答が七枚集まれば、それをこの取引ルームに全て置いておくことで、ルールに違反せずに全員で共有ができる!」


 あ、そうか。

 確かに、桜崎の言っていることは間違っていない。


 取引ルーム使用時のルールは、『同時使用人数』と『一日に会える人数』についての制限しかない。

 取引ルーム自体は、ルールに違反さえしなければ何回でも何人でも出入り可能なのだ。

 そこに、集めた解答を全て置いておく。それだけで、全員の合格が保証される。


 ……だけど。

 この方法は、果たして本当に成立するのだろうか?


「所有者が七人集まり次第、この方法を実践するわ! だからお願い! 今ここに所有者がいたら、名乗り出て欲しいの! すごく勇気のいることだと思うけど、お願いします!」


 一番勇気が必要だったのは、こうして前に出てきた桜崎だろうに。

 彼女は、深く深く頭を下げていた。


「……柊」

「わかってるわね?」

「うん。今名乗り出るのは、得策じゃない」


 柊は、僕の顔がバレないようにか、さりげなく僕の前に立ち位置をずらしていた。

 柊だって所有者のはずだが、自分自身は隠さなくていいのだろうか。


 結局、桜崎の必死の演説も虚しく、名乗り上げたのは佐藤というメガネの男子だけだった。

 桜崎は彼の手を取って謝意を伝えていた。


「ここに全員揃ってるわけじゃないから、一回コテージ戻ってまた声かけに来るね! 解答持ってない人たちは、解答所有者の子を見つけたら、あたしの話をしてあげて欲しい! よろしくね!」


 最後まで健気に懇願しながら、桜崎は食堂を去っていった。

 佐藤は、不安そうにキョロキョロあたりを見回しながら購買へ向かっていった。


「――神代くん、ありがとう。察してくれて」

「なんとなく、ね。彼女が言った方法、言うは易しって奴だなって思って」


 桜崎の作戦の肝は、解答が七枚以上、取引ルームに置かれることだ。

 そうすることで、所有者だけでなく、全員がその回答を閲覧できる。


 だけど、問題もある。

 例えば、『誰も解答を独り占めしないか』という問題だ。


 解答を揃えたまではいいとして、それを誰かが持ち逃げしないか、ということ。

 もし万が一、取引ルームに置かれた解答を誰かがジャージの中にでも隠してしまえば、それを取り返すことはまず不可能だ。


 この試験は、法に触れる行為を強く禁じている。それはもちろん、暴力や、強奪、脅迫なんかも含まれるだろう。一度解答を隠した者に、それを穏便に差し出させるのは容易ではない。

 隠し持ったことの立証すら、難しいのだ。


「そうよ。あの提案は不確定要素が多すぎる。人が集まってから詳細を詰めるつもりだったのだろうけど、先に懸念が解消されない限り、人は集まらないわ。順序が逆ね」


 柊は、大きなビニール袋を持ち直して、食堂をあとにする。

 外は、すでに暗くなっていた。


「現時点では、名乗り出ることにリスクしかない。――あの子、狙われるかもね」

「狙われる?」

「可能性の話よ」


 柊は「それより」と話を区切って、


「今後の方針を話したいわ。神代くんのコテージ、上がってもいいかしら?」


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