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第三章 怒涛の一日目 ①

 僕は全力で森を駆け抜けていた。


 脇目も振らず、北東ブロックへ。

 単純な理由だった。スタート位置の南西ブロックから遠い方が、ライバルが少ないと思ったから。実際はわからないけど。


 木の根を飛び越え、枝葉を潜り、とにかく駆ける。

 とにかく、前へ、前へ。


『あっはっは! 必死だね光輝クン! よほど「特待生」の単語が飴になったと見える!』


 フェリスが、宙を滑るようにして僕に並走する。

 好き勝手言えばいい。

 解答率一位が特待生。そして柊のアドバイス。手ぬるい考えなど吹き飛んでいた。


『さてさて、始まったね。さぁ、キミはどんな姿をフェリスに見せてくれるのかな?』


 フェリスは、木々を避けるように走る僕と違って一直線に空を翔ける。

 物体の干渉・非干渉は自分で決められるらしく、鬱蒼と生い茂る林の中も構わずまっすぐ飛んでいた。ずるい。


 それにしても、このビオトープはかなり広い。

 それぞれのブロックは正方形に区切られているみたいで、その一辺は多分二キロくらいある。それでいて獣道みたいな道はまっすぐ伸びていない上に舗装もされてないため、距離以上にブロック間の移動は時間がかかりそうだ。


 僕は、スマホから『リスト』を呼び出す。

 走りながらヒントを考えた方がいい。これは、早い者勝ちなんだ。

 ページを開き、北東ブロックの隠し場所のヒントを確認する。


【レッドウッドのハイペリオン 日出る国に住まうソイルドラゴンの生息地】


 やばいこれ外国語か? 爪の先ほどもわからない。


 悩んでいる間に、北東ブロックへ到着した。

 幸いなことに、僕が北東ブロックのパイオニアになれたみたいだが、わずかな時間的優位はこの謎なぞなぞのせいで取り上げられてしまうだろう。一刻も早く、ヒントを解読しないと。


 肩で息をしながら、必死で頭を回す。


 レッドウッド……赤い木? 紅葉? 

 ハイペリオンってなんだ? 

 ソイルってなんだっけ。豆? それは大豆(ソイ)か。醤油(ソイソース)だもんな。


『……だめだ。わからない。ねぇ、フェリス、わかる?』


 思わず、性悪悪魔に訊いてしまう。


『えー? フェリスに頼っちゃうのかい?』

『ちょっとくらい助けてくれてもいいじゃん。僕に呪いなんかかけてきたんだからさ』

『絶望と希望は等価交換できないよ』

『うるさいな。まさか、悪魔様でもこの問題はわかんない?』

『そんな煽りに乗るわけないだろう』


 フェリスは、見限ったような瞳で僕を見下ろす。


『……つまらない男だよ、今のキミは』


 冷たい声で言うと、彼女は高い樹の枝に座ってどこかを眺め始めた。

 まるで、こちらに興味がなくなってしまったみたいだった。


「……なんだよ、それ。くそっ!」


 フェリスから視線を剥がし、辺りを見回す。

 わからないものはわからない。ぱっと見その辺に赤い物体も紅葉も存在しなさそうだし、ヒントはヒントと割り切って、しらみつぶしに捜索するしかない。 


 赤川先生は『隠してある』と言った。

 きっと、暗号を解かないと手に入れられないギミックのようなものじゃない……はず。多分。でなきゃ困る。

 息も絶え絶えになりながら、視線をあちこち泳がせる。


 封筒は手のひらサイズな上に、保護色にもなる焦茶色だ。

 簡単に見つかるとは思えないが、ヒントがわからない以上、愚直に探し続けるしかない。


「……わ、もう取られてるところあるのか」


 スマホの『リスト』を見て驚愕。

 左下と真ん中のマス目には『済』の文字。南西と中央ブロックだ。


 スタート開始から、まだ四〇分くらいしか経っていない。

 北東ブロックに到着してからはまだほんの数分程度だ。

 このブロックももう少しして人が増えれば、すぐに解答が見つけられてしまうかもしれない。

 それはかなりまずい。


「……くそっ」


 大きな樹の根元に背中を預けて、少し休憩。

 南西ブロックからここまで走り詰めだ。


 滴る汗を拭き捨てる。日光は背の高い樹々のおかげで隠れてはいるけど、それでもまだまだ暑い。

 むしろ湿度が高くて、土と葉っぱのむあっとした香りでむせ返りそうだ。


 僕は、もう一度『リスト』のヒントを眺める。

 ふと思い出すのは、銀髪の少女。


 柊なら、こんな暗号もすぐに解けるのだろうか。


 彼女は明らかに優秀な人間だ。

 あらゆる分野のエリート候補が集まる常盤城高校においてもうまくやっていけるのは、ああいう聡明で冷静な子なんだろう。


 僕の立ち位置は正反対だ。

 僕はきっと、彼女の足元にも及ばない。


「……なんで、こんなことになっちゃったんだろう」


 思わず足から力が抜け、ペタンと座り込む。

 青々とした樹葉に切り抜かれた空を眺める。


 僕がもたれかかっている樹は、この一帯でも取り分け背が高いみたいだ。

 金網を突き破り、その頂点はここからでは見えなかった。


 それくらいじゃないと、金網の外へ飛び出せるくらいの傑物じゃないと、合格はできない。

 そんなことを言われているような気がした。


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