第二章 何故か僕だけデスゲーム ⑥
すごく気まずかった。
何が気まずいのかというと、
「……何の縁かしらね」
バスで隣の座席に座ったのが、例の銀髪の少女だったのだ。
「……そうだね」
完全な他人だったら寝たふりでもしておけばよかったけど、少しでも話したことがある人が隣に座っていると、変に意識してしまう。なんか、話をしなきゃいけない義務感のようなものに駆られるのだ。
かといって、僕とこの少女の間に共通の話題なんかない。だから気まずいのだ。
だけど、そんな気まずさなんか、身体を侵す毒沼のような恐怖に慄いている僕には些細なことだった。
迫り来るゲーム開始の時に震えて、緊張のあまり嘔吐してしまいそうだ。
『おや、光輝クン、銀狐ちゃんの隣で緊張しているのかい? キミもウブな少年だということか。命がかかっているというのに、呑気なものだね』
僕は、バスの天井に張り付くように寝転がっているフェリスを睨み上げる。
『冗談だよ。キミは何人もの女性を手玉に取ってきたプレイボーイだ』
『そっちに怒ってるんじゃない。静かにしてくれ』
『それは無理な相談かな。フェリスは暇を持て余しているからね』
言って、フェリスは『パツパツジャージ』やら『爪楊枝』などと呟き始める。
何かと思ったら、受験生一人一人にあだ名をつけて遊んでいるらしかった。
挙句、僕には『虫の息』なんてあだ名をつけてきた。誰のせいだと思っているんだ。
「――ねぇ」
ふと、隣に座る銀髪の少女が話しかけてくる。
答える余裕は正直ないけど、無視するのも居心地が悪くなりそうだ。
「……なにかな」
「私は柊雨凛。あなたは?」
「あ、あぁ。神代、光輝です」
「そう。じゃあ神代くん。気のせいだったら申し訳ないのだけれど」
柊と名乗った少女は、長いまつ毛を瞬かせて、
「――あなた、何か視えてるの?」
ぞっ、と背筋が凍った。
柊は、人の視線や態度から、心を読むのが得意と言っていた。だとしたら、僕に不可視の生命体が憑いていることくらいお見通しなのかもしれない。
探偵に名指しされた犯人のごとく頭が真っ白になるも、逆に一つの思考が浮き出てきた。
この柊という少女は、高い能力を持っている。
だったら、僕が置かれている状況を説明して、なんとかして協力してくれれば、特待生への道はずっと現実的なものになる気がする。
まずは、フェリスのことをどう信じてもらうか――
『あ、ちなみにフェリスのことバラしたら今すぐ死ぬからね』
希望は一瞬で潰えた。
「え、ご、ごめん。挙動不審だったかな。緊張しちゃって。あはは……」
咄嗟に誤魔化すも、柊は信じていないみたいだった。
「嘘ね。あなたの目は、確実に何かを捉えていたわ」
「えー、いや、気のせいだよ……」
「隠し事をしているわ。私、イカサマは許さないわよ」
「イカサマなんて、まさか。そんな勇気ないよ……」
どれだけ弁明しても、柊は懐疑の瞳をやめない。
やばいやばいやばい。ここで万が一フェリスの存在がバレようものなら、試験が始まる前に僕は終わりだ。
必死に平静を保って、柊に微笑みを返す。
「……怪しいわね」
だけど、全然効果はないみたいだ。
泣きそう。
「けれど、イカサマではない、というのは本当のようね。まぁ、誰しも言いたくないことの一つや二つはあるものね。疑ってしまって悪かったわ」
柊は軽く頭を下げると、流れていく窓の外の景色を物憂げに見やった。
『バレなくてよかったね、光輝クン』
ふわふわ浮いているフェリスが、ニヤニヤと意地の悪い笑みで僕に言う。
そして柊を指差し、『銀狐ちゃんはホームズに改名だ』と名付けていた。
たしかにそんなイメージだけど。
バスは、まだ走り続ける。




