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憑かれているのだ

 残暑が翳りを見せ始めた九月の終わり。


 僕は、とある高校の入学試験を受けるために、高速を走るタクシーに揺られていた。

 国立常盤城(ときわじょう)高校。東京都西部の一区画を開発して造られた、全寮制の高校だ。

 卒業すれば、夢への旅路が舗装されるとまで言われる超名門校で、入学倍率は百倍を超える全国屈指の難関高としても知られている。


「見えてきたぞ、受験生」


 壮年の運転手に言われて窓の向こうへ目線を投げると、外周を壁に囲まれた要塞のような物体が緩やかに近づいてきているのが見えた。


「あれが、常盤城高校……」


高速道路よりもはるか上まで突き抜ける電波塔。それを囲むように並び立つガラス張りの高層ビル群。

そして、砂利のように無数に散らばる小さな建物。外界との交流を隔絶するような巨大な壁のすぐ内側には、森のような敷地も確認できる。出来の良いジオラマみたいだった。


「軍事基地みたいだろ? 見たのは初めてかい?」

「ああ、はい、資料でしか」


 手元のクリアファイルに目線を落とす。

 入試の注意事項が書かれたA4の紙に、『神代(じんだい)光輝(みつき)』と印字された受験票、そして、学校案内のパンフレットだ。


「こんなに巨大な施設、造るのにどれだけかかったのだろうねぇ」


 僕の隣で、森林を思わせる緑の髪の少女――フェリスがパンフレットを覗き込む。

 彼女の頭のせいでパンフレットが見えなくなった僕は、再びガラスの向こうの要塞へ視線を戻す。


「あの中に、学生だけの小さな国があるんですね」

「おうよ。何でも、入学したら親とも連絡がとれねぇっていうじゃねぇか。それでも学生が不自由なく暮らせるよう、何でも揃ってるんだとよ」


 運転手の男性は、大きく首を捻る。理解できないとでも言いたげだった。


「おっちゃんにも娘がいるんだが、もし三年間会えないなんてなったら、ちと寂しいがね」

「はっはっは。それは親のエゴというものだよ。親離れできない子も醜いが、子離れできない親はもっと醜いぞ。父の日に鏡を頼むといい」


 僕は、フェリスを無言で睨む。彼女は、飄々と肩をすくめると、押し黙った。


「まぁ、子供にも色々事情があるんですよ。僕だって、何がなんでも特定生で入学しなきゃならないですし……」

「おうよ。お兄ちゃんも、()()()()()()()()()()()。ただならぬ目的があってあの高校を目指してるんだろうさ。常盤城専属の送迎手として色んな受験生と関わっちゃいるが、どいつもこいつも中学生とは思えねぇ野望を抱いてておっちゃんびっくりすらぁ」


 かかか、と運転手は笑いながら、ウインカーを出して高速道路を降りるべくハンドルを切る。


「キミの場合は、ちょっと違うがね。なぁ? 光輝クン」


 フェリスがあざけるように嗤う。

 しかし、それはどうしようもなくその通りだった。

 僕は、何か大層な野望があって常盤城高校を目指しているわけじゃない。


 むしろ、その逆。

 常盤城高校に特待生で入学すること。そのものが僕の目的だ。


「くくく。キミはこの入学試験で、どんな姿を見せてくれるんだろうねぇ?」


 その少女フェリスは、淡く輝きを放つ自身の翼を指で優しく梳かす。

 その翼は、よく連想される天使のそれに酷似していて。

 だけど、この少女、フェリスがそんな暖かい存在だったらどれほど良かったか。


 そう。僕は、憑かれているのだ。


 この天使の形をした……悪魔に。


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