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草原のリポップ  作者: 銀桂馬
54/54

54 ルガーの任務①

兵士長ルガーの日常。第1話になります。



 夕暮れ時に鳴り響く(でん)エアのベル。

 それは離れた距離を物ともせずに意思の疎通を叶える未知の通信機。


 魔物討伐専門ギルドの派出所のひとつにガーゴイル討伐を主としているハンターの詰め所があり、そこに入伝された緊急の依頼によるものだった。



「こちら、ガーゴイル三匹討伐前派出所!」


「え? まだ三匹いってないの? お願いしても大丈夫なんですか?」



「大丈夫かというが、うちが請け負わなければそっちが大丈夫じゃなくなるだろ」と返事を返すと、討伐経験の豊富な方を至急よこしてください……今にも食べられそうだと受話器の向こうで貧弱そうな青年の慌てたふためく悲鳴が耳元に響く。



「どうか落ち着いて! 通報ボックスには護符が貼ってある、大丈夫だから!」



 と力強く励まし勇気づけた。



「……とは言っても、うちも人材不足なもんで。二匹までなら請け負うよ!」


「いや出没したのは一匹だからそれで充分です、早く来てください! 早くっ!」



 早速ガーゴイルの討伐に向かうため、一人のハンターが依頼現場に急行する。


 ハンターの名はルガー。

 一応、兵士長だ。

 討伐ギルド本部の兵士長も兼任している両手剣の使い手。


 兵士長とは千人の兵士のトップの座にいて日頃から見習い兵士の訓練に当たっている者の総称である。


 依頼現場の「嘔吐街(おうとがい)酔いどれ船橋三丁目」についた。

 名の示すとおりの飲み屋街である。


 まだ夕暮れ時で開店するには早すぎる時間帯だ。

 そのため人通りもほとんどない。

 飲食物のニオイすら漂っていない繁華街に、なぜガーゴイルが出没するのか。


 ガーゴイル。それは漆黒の魔物。

 切っ先の鋭い目つきに、カラスぐち。背に生えるは蝙蝠のごとく薄気味悪い羽根が特徴。


 魔物研究者の間ではその別名を「闇夜の守護神」とうたわれる気高き魔物だ。

 その呼び名が付けられたのは全身の9割が漆黒に染まっていたからだ。

 とくに夜行性だという報告も上がってはいなかった。


 つまり昼夜を問わず活動が目撃されているということだ。それでも人々からは夜行性のイメージが強いという報告は星の数ほど耳にする。

「夜のとばりも下りないうちから単独で飛び回っている」と通報者はひどく嘆く。


 ルガーは声を張り上げて「通報により参上したゴイルハンターだ!」と通報者に向けて呼びかけた。


 通報者の正確な所在地はすでに把握していた。

 派出所に緊急通報が入った時点で逆探知部隊が現在地を特定する。

 逆探知部は本部に設置されている。本部からも全討伐ギルド支局、派出所へ伝令が回っている。

 ルガーのところが一番近く、管轄内という理由で彼が請け負ったのだ。


 出現数が一体ということで「三匹討伐前」のルガー兵士長が出兵したことも全ハンターの知るところだった。



「おい、きみ! もう大丈夫だからボックスから出て同行してくれたまえ!」



 通報ボックスに近づいたルガーは、ボックスの窓を軽くノックする。

 ボックスは、ほぼ透明のクリスタル加工板だけで造られている。

 大柄の成人が一人入室できるぐらいの小さな四角い部屋だ。


 中にいた青年の表情から読み解けるものもあったが。

 ルガーは彼に外に出るように促した。

 それもそのはず。魔物の姿がどこにも確認できないからだった。


 青年がルガーに気づいて目を合わせるも、彼は首を横に振り、ルガーの要求に応じようとはしなかった。怖い魔物を見た恐怖心が全身を襲ったのだ。


 その怯えが身体から抜けきるには少しの時間がかかるだろう。

 ルガーは腰を落として優しい声をかけ続けた。

 クリスタル板は超薄い。その壁越しに見る限り魔物が彼を襲った形跡はない。

 ガーゴイルの手足の爪は鋭い刃物のようだ。くちばしも同様に。

 微塵でも接触されたのなら衣服は切り裂かれて血を見る結果を招くはずなのだ。



「大丈夫だ! 魔物の気配は感じられない。身の安全は保障する。事情を聞き取るのが仕事なんだ。通報者も話す義務があるのは知っているだろう?」



 それについては青年も首を縦に振ってみせた。

 見届けたルガーは引き続き問いかける。



「目撃に至った状況を説明してくれ。それで魔物も見当たらなければ、きみを保護して居住区に送り届けて私の任務は完了だ」




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