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名もなき草原に咲くⅡ  作者: ゼルダのりょーご
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43 ルタ・パリィ


 グラスギアたちが各々の成果のため本日の方向性を話し合う。

 教室に残り研究する者。

 採取のために坑道へ出かける者。

 または、レアなものを見つけて街に売り、研究費の捻出に精を出そうとする者。


 たしか叔父の説明では奨学金制度のある学園だったが。

 魔王の脅威が去ったから削減されたのかな。

 それとも小遣い稼ぎも可能なのかな。


 一般枠には街の冒険者ギルドなどもあるが。

 大抵、学園生からの成り上り冒険者が優遇される。

 そのための研究に余念がないのだな。


 ボクは養成学校とは無縁なのだが。


 魔王はボクが討伐したので今は緊急で学園生らが冒険者としての召集を受ける可能性は低い。


 ただ今後も緊急時に備えて訓練の続行はされているようだ。


 街の周辺からは魔物の姿は消えたが、すべてが魔王の配下ではなかった。

 魔物自体はまだ存在しているということだ。

 魔法研究のために捕獲され飼育されていた個体も世の中には計り知れない数がいたはずだ。


 この学園でも訓練のため放し飼いにされた魔物の施設や領域があるはずだ。

 元々在籍していた生徒達はそのまま研究や試練を続行しているのだ。



「レアものでなくても数で勝負するために荷組(ポーター)を連れていくどこぞの剣組(ソード)の連中が恨めしいよな」

「パーティーを組むのは金持ちと相場が決まっているんだ。諦めろ」

「あーあ、せめて荷組(ポーター)の一人も持ちてぇよな」

「そいじゃ中等部にでも行って恵んでもらってこい」



 ほかの教室には『荷組(ポーター)』や『剣組(ソード)』もある。

 その名の通り荷物持ちや剣士を輩出する教室のことだ。

 家柄が良ければどこの教室でも希望入学可能だが、貧困だと『草組(グラス)』に流れてくるしかない者もいる。


 格好良く生きるために辛い訓練に身を委ねることを志願するのだ。

 そんな意味で『剣組(ソード)』の人気はとても高いのだ。


 おっと。


 キンコーンカーンと始業の合図が校舎に響き渡った。

 雑談でガヤついていた教室は先生の入室に合わせるように静まり返った。

 皆が各席に着いたようだ。


 秩序は守られているようだ。

 まもなく先生がやってくる。


 ボクの転校の紹介があるから、あの教壇の前に出ることになる。


 髪型はボサボサではないが伊達メガネを掛けていた。

 元冒険者だと誰にも気づかれてはいけない。

 ましてや勇者だなどと知られてはならないのだ。

「命を賭して内密にせよ」と王様に言われたのだ。


 身バレするようなことがあれば間違いなく「勇者権はく奪」に繋がってしまう。


 さいわいボクは天涯孤独の身だ。

 うんと田舎からやってきたことにするのだ。

 だから野草には詳しいとかなんとか誤魔化しながら過ごすことになる。


 でも自分の持つ知識を微塵もひけらかしてはいけない。

 そして魔王を討伐した勇者の名は広く知られているはずなので。

 ちゃんと別の名を用意して置いた。


 



「皆さん、おはようございます! 転校生の「ルタ・パリィ」です。グラード峠を越えたド田舎から来ました。よろしくお願いします!」


 90度に近いお辞儀をして身を起こすと掛けていた眼鏡を指で少し持ち上げた。

 さすがに小学じゃない。

 だれも興味は持っていない。

 挨拶を返してくれる者はいなかった。

 教室はシーンと静まりかえっていた。


 噂話をしていたくせに。

 気にしていないふりをしているのだな。


 紹介した田舎が無名すぎたか。

 峠は存在するがその向こうに広がっていた地域は戦場となり荒廃した。

 今も昔も、だれも近づきはしない。

 ここからは果てしなく遠い場所になる。


 この名は昔、近所にいた仔犬と仔猫に付けた名だ。

 ボクの素性を知るのは王様だけだ。

 学園長でさえも知る所ではない。


 下校までに「シャンティ」という女生徒に告白をするのだ。

 人気のない場所に呼び出して「好きだ」と伝えれば良いだけのミッションだ。

 たいした業務ではない。


 なぁに、すぐに終わるはずさ。

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