40 贈り物
ついに平和が訪れたのだ。
やっと平穏がもどったのだな。
街に出てなつかしい道を練り歩く。
この街の武器屋へ顔を出すと、主人は店をたたむと寂しそうにいった。
ついで防具屋へ寄ると、主人は売れない物では勝負できないと田舎へ帰る。
道具屋はただの薬屋になると言っていた。
すべてボクのせいだ。
幼い日に神官に連れられた子供の噂を聞いていないか訊ねた。
身寄りのいない子供は珍しいほど少数だったからよく覚えていると。
「気の毒にな。あんな子供に何が成せるというのか。でも誰も徴兵任務といわれれば逆らえるものではなかったから」
パン屋のおじさんとシスターは街の片隅でそんな子供らをめげずに見守っているらしい。
名前も知らないけど元気ならよかった。
城での宴の後だから今日のこの日だけは、ボクものんびりしたい。
また今度顔を見せにいこう。
これまで通り変わらぬ道で過ごす者。
ちがう道を歩みだす者。
行き交う人々は様々なのに。
はてさてボクはどこへ行く。
そういや先日、笑顔で見送る王様に……。
「後日、城へやって来い。お前に渡すものがある」
褒美はすでにたんまり頂いたのに。
なにをくれると言うのだろう。
◇
そして一夜が明けた。
登城し、王に再び謁見する。
「ちこう寄れ」
「はっ!」
王の声が聞こえた。
玉座の後ろまで伸びている紅い絨毯が繫栄の象徴だろうか。
王宮などに無縁なボクは乏しい知識でそう考える。
初めて歩いた頃はみっともなく転ばないか心配だった。
足運びも貴族の様にはいかず今でも不慣れなままだ。
寄ってひざまずくと側近の衛兵が近くに来た。
目の前にすっと差し出されたのは……。
「が、学生証……。ボクは学園に通うのですか?」
「そうだ──5歳で旅立ち、いま17歳のそなた。じつに12年、人並みに生きた試しのない不憫なそなたをワシは学園に送り出したいのだ」
「いまさら学校に通わなくても、社会では生きて行けますし……」
「なにも学問に打ち込めというのではない。ただの少年にもどり恋花のひとつでも咲かせよ……と言いたいのだ」
ボクは身寄りのない天涯孤独の者だった。
強くなる以外に認められる道理を知らなかったのだ。
勇者になる道がなかったからそうしていたかもしれない。
あの日のことが神託による強制だったとしても。
勇者の道を歩んだのは自分のためだったのに。
やっと課せられていた国民としての使命が終わったばかり。
勇気の呪縛から解放されると思いきや。
王様はいつまでも本当の父親のように見守ってくださるのだな。
貴方様こそご自愛ください。
公務とは激務の連続だ。
姫も王子もご立派になられて、手も掛からなくなった。
その尊い老後の時間をボクのためではなく、妃のために使われるべきです。
ボクははじめて王様に物申す。
「ボクに学園生など不釣り合いです……」




