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名もなき草原に咲くⅡ  作者: ゼルダのりょーご
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39 死闘の末


 完膚なきまでに討ち滅ぼさねばならない死闘の連続だった。


 死闘の末に人類側が勝利を収めたのだ。

 ボクは生き残った。

 魔王を討ち取った。


 とどめを差したのも、仲間を庇いつづけたのもボクだった。

 誰の前でも勇気ある者として手本となることを強いられてきた。


 ずっと辛かった。

 ずっと孤独だった。

 隠れる場所を探した。

 泣き崩れたかった。

 戦いは嫌だと、もう沢山だと。

 だれかの温かい胸で、たくましい腕の中で仔犬が眠るように。

 他の戦士がその姿勢をさらけ出す時、ボクがいつも背中を押した。

 小さな子供なのに。

 大きな大人たちの励みとなるために。


 その励ましは時に余計なお世話となる。

 心の傷を癒すものとはならず。

 死線を越えた先に恐怖を感じなくなって死を恐れない人間兵器と化す。


 だけど、この口は決してそれを他者に語ることはない。


 生まれながらにして勇気ある者が証明してよいのは「勇気」だけなのだ。


 そうしてボクも故郷に戻って来れた。

 わがふるさとの街にも春の訪れが。

 人々の笑顔は道の端にまであふれている。

 ただその功績は王族に向けられているものばかりだ。


 旅立ちは5歳。

 ボクはふるさとの街から姿を12年間消して生きて来た。

 いつも「売れ残りでよかったら」とパンを分けてくれた商売人。

 笑顔で「ともだちはできたの?」と声をかけてくれたシスター。

 身寄りのない子は隣人が、いつも誰かが陰で支えてくれるから寂しくなかった。


 時の流れがそうさせたのだ。

 感傷に浸る趣味もなければ、その許可さえも下りなかった。


 こうして平和を取り戻しはしたがボクを覚えている人はもういない。

 故郷という名の場所はある。

 ふるさとの想い出を共有する者はもういなかった。


 勇者としての使命をまっとうした。

 王様には深く感謝され、お礼の言葉を賜った。

 城内の人からも、「ありがとう!」と「万歳!」を雨あられのように贈られた。

 賞賛がいっぱい。

 この胸にいっぱい。


 そして宴が終わった。

 12年の苦節はたった半日の城内での宴で忘れ去られようとしている。


 つぎの日になれば長い休日が始まる。

 これからボクはなにをする。

 なにをしていく。


 これまでは戦いと負傷の連続だった。

 敵わない奴に出会えばもっと戦いの研究をした。

 更なる戦闘術の開発に時間をかけた。

 人知れず、山の奥にこもったこともある。


 この先の日常にそれが訪れることはない。

 すべての傷の手当ても終わり、健康そのもの。


 勇者だったからどんな苦難も乗り越えてきた。

 これからも何だってできるさ。


 ボクの夢って何だった?

 真実にやりたいことはあったか。

 この旅路を終えたらいつか子孫の顔を拝みたい。

 相手がいればの話だけど。

 月並みな夢ならいつも心の片隅に描いてきた。


 魔王軍の討伐に参加したのは5歳のときだった。

 くどいようだが。


 魔王はもういない。

 どこにもいない。

 手下も消えた。

 すべて消え去った。


 監視塔より眼下を望む。


 見渡す平原に一匹のスライムも歩いていない。

 人間の暮らす街のそばに日常的にあった邪悪な気配はすっかり消えた。

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