38 風雲急を告げる
小説/ うわさの隠れキャラにボクが任命されました 主人公ルタ・パリィ編①
魔王を撃ち滅ぼしたのは、つい先日のことだ。
我が国に平和がもどった。
国中に安らぎが帰って来た。
いつも曇っていた空も晴れ晴れと光輝くようだ。
思えば強風や激しい雷雨ばかりの連続だった。
あの日この日。
これまでの人生が雨宿りと野宿のくりかえし。
見上げる空を笑顔で迎える人はいない。
天候すら支配下に置く魔王軍の所業に人類は生気を失いつつあった。
魔王が降臨した『アレフガルルル』大陸へ旅立って12年の歳月が流れた。
大陸の脇に浮ぶ小さな列島が我が国だ。
旅立った頃は「勇気」というギフテッドにより選ばれただけだった。
王や高官たちは勇気ある者を広く募っていた。
近隣諸国からも多くの冒険者たちが魔王城に向かい旅立った。
その多くは魔王の軍勢の前に敗れ砕け散った。
人の命の儚さ。
遠目に映るのは名も知れぬ群衆の最後。
遺された家族が戦士の訃報に涙するのも束の間のこと。
魔王の姿を目に焼き付けておきながら無事に生還したものなどいない。
負傷兵をあちこちで見かけるが配下の討伐で手負いになった者たち。
病のなき者は子供でも出兵を余儀なくされる。
その悪夢からの脱却を誰もが愛願とするのならば。
いつまでも悲嘆に暮れる行為は兵たちへの冒涜となる。
涙乾く間もなく神託ある者は戦場へ送られていった。
十六歳で受けられる本来の神託の「儀」よりかなり早かったがそれだけ国に危機が迫っていた証なのだ。
身寄りのないボクにも思いがけず例の「儀」が回って来た。
神官たちも、徴兵のために足を棒にして自ら民のもとへ訪問していた。
その折、ボクはだめ元で受けさせられたのだ。
神託の「儀」で賜ったギフトが「勇気」だった。
そのようなスキルは誰も聞いたことがないとういのだ。
だが勇気ある者はどんな苦難も乗り越え、恐れを抱かない者だと。
神官たちはこぞって、王室に報告をいれた。
その時点ではまだボクは穢れ知らずの5歳の幼児だった。
お前が勇者として選ばれたのは間違いない。
高官たちの意見は幼いボクにとっては決めつけでしかなかった。
大人たちと識者たちの強い推しにより、王に謁見することになった。
ルタ・パリィにできることそれは魔王の討伐だけです。
冒険と戦闘しか取り柄がない彼は魔王討伐後の世界で泣くことになる。
そんな物語です。




