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名もなき草原に咲くⅡ  作者: ゼルダのりょーご
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37 ひまつぶしには丁度よい


 手に取って目にはめるに決まっているだろう。

 彼は中身を丸ごと取り出して、まじまじと眺めていた。



「あっ!」



 両手の指先で塊に触れた。

 真中から真っ二つに分離した。



「なんかちょっと……分厚いなぁ。こういうものか」



 そんなわけないだろ。

 いまちょうど、左右に50枚ずつ手にしているんだよ。

 もう少し丁寧に扱わなければ、ばい菌がつくぞ。


 丁寧にかつ慎重に一枚を剥がして指先の腹に乗せるんだぞ。

 そして鏡を見ながら凹みのほうを眼球に向けてそっと入れるんだ。


 そっとだぞ…。



「これを、たしか一気に目の中に押し込んでいたっけ」



 荒い!


 そんな手荒に扱うんじゃない。

 デリケートな品だぞ、気を付けろ。



「はうっ。…息を大きく吸い込んで、吐く。そして次の吸い込みで一気に装着だ!」



 あ、馬鹿やろう!

 ちがう、ちがう、ちがうっ!


 何やってんだよ。

 そんな入れ方したら目が潰れるぞ。

 絶対に痛いから!


 息を吸い込むとか、そんな予備運動は必要だったか?

 大学生の忘年会じゃあるまいし、一気、一気をしてどうするのだ。

 どういう教育を受けているんだ?

 どうやら受けて無さそうだな。



「うおぉぉぉぉおおおお!!! 我慢だっ! これぐらい耐えてやるぞっ!!」

 


 やっちまいやがった。


 一気に畳み込むように、押し込むように。

 まるで自分で自分を治療するマッサージ師のようだ。


 自分の眼球に向けられた指先は綺麗にピンっと伸びていた。

 レンズをつけている所を見ていなければ、痛々しい目潰しにしか見えないだろう。

 目潰しのかくし芸の仕込みにしか見えないぞ。

 スライムは鏡の前のイスから後ろへ仰け反りすぎたため、そのまま背後へと姿勢を崩し、倒れてしまった。


 目の中に走る激痛は恐怖でしかなかった。

 彼はもがきにもがいた。

 床の上をのたうちまわる。

 知らず知らずのうちに勝手口まで転がり七転八倒の末、屋外へ出てしまう。


 閑静な住宅街。

 山の手の高級住宅。

 転がり続けた先に待っていたのはガードレール。

 やはり飛び越えたか。

 天空よりも高くはないが転落した先は私有地内の水路。



 うん。

 見事なブリッジで着地をしよった。

 姿勢がブリッジを描いたまま。



 グキっ!!



「……ぐふっ……」



 どうやら運が尽きたようだ。

 彼は首の骨を折ってそのまま、あっけなく死亡してしまった。


 頸椎を圧迫され、喉も詰まり、呼吸困難からの窒息死に至ったようだ。

 

 まじ?

 まったく動かなくなった。


 家族が出かけている間にとんでもない事故が起きてしまった。

 新作ゲームに執着するあまりに。

 兄弟を出し抜いて、家族サービスもボイコットしてまで。

 手に入れた独り占めの空間。

 すべてが自分のものになるはずだったのに。

 家族はまだ出かけたばかり。

 さきほど母親から電話をもらい、留守番を任されて通話を終了したばかりだ。



 おーい君っ!


 おーい君っ!!


 お返事がない。

 ただの屍に成り果てたのだ。


 この時点で救急搬送されたなら、彼は死なずとも済んだ可能性もあるだろう。

 だが家の中には誰もいない。

 猿飛スライム以外は。





 ──────




 これが彼の死亡転生ファイルか。

 転生ファイルに目を通すなど何万年ぶりのことだ。

 ひやひやさせおるの、まったく。


 こうしてあの猿、いやスライムだったかな。

 命を落として異世界女神のわたしのところへと転送されてきたのか。

 

 お前はもう、どんな高所から落ちても死なないから安心するがいい。

 落下ダメージに耐えうる身体だからといって無敵ではないが。

 そういうスキルなのだ。


 スキルを配布するだけの役目ではないが。

 行っちゃたものは仕方がない。


 調子に乗り過ぎて落下の勢いでどこかのマップにでもはまって抜けられなくなっていないか時折チェックはしてやろうかな。


 ひまつぶしには丁度よい。




 終わり


ティアオブティア「猿飛スライム」編終わり。

次編まで間が開くことがあります。

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