35 猿飛スライムの日常
東京都内、一軒家。
猿飛家の嫡子スライムはその日、留守番をしていた。
八人という多家族で、スライムの他七名。
彼には家族がいっぱい居た。
父母とその長兄でもあるスライム。下に合わせて六人の弟、妹がいた。
スライムは早起きが超苦手な十七歳、男子。
ゴールデンウイークに家族そろってショッピングモールへドライブ。
大きめのライトバンの車内に咲く一家団らんの画。
そこにスライムの姿はない。
その予定からスライムだけが外されて、家に置いて行かれたのだ。
「──大丈夫、食べてるから。ゆっくり楽しんできてよ……うんうん、じゃあね」
リビングで寛ぎながら、彼は耳元にスマホを当てて気楽に応対している。
もう昼過だった。
ご飯は用意しておいたからしっかりと食べて……。
恐らく、そう言った内容の母親からの電話だろう。
「ショッピングなんて、人出の多いGWに行けばドツボでしょ。それに今日は、あおぬま堂から神ゲーのアプデがあるんだ。買い物なんか、ついて行ってたまるか」
つまり計画的に寝坊をしたわけだ。
『ゲームやりたさに一人で留守番をする』を選択したのだ。
通話を終え、電話を切った。
彼のニヤけた顔がそこに浮かんでいる筈だが。
「ゆうべの内に大型アプデは完了している。それなのに……こっちのやつもか」
整理整頓がなされて清潔感に満ちた四十帖のリビングルーム。
ソファー数個、テーブル数個。
大画面テレビ数台がリビングに設置されている。
動線もしっかりと保たれた、寛ぎ空間のソファーの上で彼が呟く。
テレビボードの収納スペース。
最新のゲーム機や音響機器が見える。
壁際に並ぶ机には、PCとモニターも複数見て取れた。
それぞれにネット環境も整備されているようだ。
どうやら猿飛家は皆、同じ方向性の趣味があるようだ。
ゲーマーズファミリーといったところだ。
動画配信や実況の為のマイク、チェア、デスク。
その他の機材も人数分の用意があるように見受けられた。
座っていたソファーの正面、3メートル先に鎮座する大画面テレビ。
両手の中には、ゲームのコントローラを握りしめている。
「ちっ……なんでだよ!」
彼は、舌打ちとともにソファーから腰をおろして前方へ身をせり出した。
テレビにでかでかと映し出されるゲームのタイトル画面。
だが──。
ゲームを開始する彼の表情は、どうにも浮かない。
兄妹を出し抜くように、家族サービスを蹴ってまで手に入れた一人占めの空間。
苦虫を嚙み潰したような顔で、舌打ちをする猿飛スライムがいた。
テーブルよりも前方、テレビのすぐ手前に敷かれたラグの上に這い出して、胡坐をかいて画面を見上げた。
「ソファーに座ってやりたかったんだよ、俺は。──それなのに」
ゲーム機から伸びているコードをギリギリまで手前に手繰り寄せて、
「コントローラーのバッテリーもなくなっている。充電も抜かりなくやった筈だ。くっそ……、あいつら」
ゲーマーの兄妹を出し抜いて先に一人で楽しもうとした矢先、コントローラーの電池が限界まで減らされていることに気づく。
予備の物も含めてだ。『コントローラのバッテリーが少なくなっています』と。




