34 どうしてこうなった
天空には少しの空の大地があるようだ。
所々、朽ちた廃坑のような神殿だった。
ふと目を覚ますとそこにいた。
景色は良く見えなかった。
俺の目の中には大量の魔導レンズがはめ込まれていたからな。
視力の乏しい者が装着し、視力を補う機能をもつ代物だ。
一枚一枚が極薄のため、左右の専用レンズはカプセルの中で100枚セットで水溶液に浸かっていた。
レンズを使用するのは今回が初めてだった。
時間に追われていた為に焦りから左右の目に「レンズとは分厚いものだな」と。
慣れない手つきで、俺はやらかしてしまったようだ。
「おい。つぎの者、名はなんと申すのだ?」
目の前から若い女の声が自分に向けられていた。
自宅ではないようだ。
驚いて名問われるがままに名乗った。
「猿……飛び……い、痛っ! ……ライムです」
「変わった名だな。猿かスライムかはっきりせよ!」
なんでそんなに偉そうな物言いなんだ。
くそ、目が痛くて前を向けない。
「面を上げよ! おかしいな、どこか苦し気に見えるが」
目の前にいる者が何者かを知ることができない。
目が痛いが同時にまぶたを閉じることもできない状況だ。
うつむいたまま、顔を両手で覆い、棒立ちのまま話半分できく。
「これからこの地に降り立って魔物の討伐に加わってもらう」
「やっぱりそういう世界にはいって来たんですね、俺」
「そういうことだ。望みを言え!」
なんだ医者か?
誰かが救急でも手配してくれたのか。
たしか一度転んでしまった覚えはあるが。
まだ意識がもうろうとしている。
ここはどこなんだ。
「とにかくこの目の痛みを取ってくれ。その上で視力を回復してくれ」
「わたしの勤める役目ではない」
「なら、望みとはなにを叶えてくれるんだ?」
「ここに来たのだから、もう分かっておる癖にからかうでないっ!!」
ドンッ!!!
誰かと向き合って話をさせられていたのだが。
いきなり張り手のようなものがこの身を襲ったのだ。
その勢いあまって身がよろけてしまった。
またレンズを目に突っ込んだ時のように激痛で後ろへと転がった。
「おいその先は、そこは修繕中で足場がないから気をつけろ!」
あんたが怪力で突き飛ばしたくせに。
身がよろけて勢いよく転がるのは俺のせいじゃない。
望みは言っただろ、叶えてくれるんじゃないのかよ。
つーか、どこまで転がるんだ。
あれ?
なんか床がふわふわしたと思えば床を転がっていた感覚がなくなった。
「おい猿、スライムだったか? どちらにせよ地上に落下すれば命はない」
さっきの奴の声が聞こえなくなった。
目が見えない。
とてつもない空気抵抗を身体に覚えるのは気のせいか。
「わたしの責任になっては困る。お前に与えるスキルは独断になるが致し方ない。
受け取れ!『落下ダメージ無効』……それしか渡せなかった。運のない奴だ」
やっと意識が戻ってきた。
ちらりと周囲を見ようとした。
両手両足をうんと広げるが障害物がないことを知った。
俺は高い所から地上に向かって落ちているのだと気づいたのだ。
目の痛みには慣れてきたのか、明るい空から眼下には緑が広がっている。
ぼんやりとしているがどこかの森に向かって落下していくようだ。
いつも夢見ていた世界に舞い降りたのか。
痛みも薄れてきたのは夢の世界だからなのか。
もしも夢ならどうか覚めないでくれ。
頼む。




