33 空から落ちると英雄扱いに
今回は、小説/ ティアオブティア 主人公 猿飛スライム編になります。
なんだ!?
いまの奴らはどこへ行ったんだ。
おかしいな、空耳じゃ無ければ俺に散々、礼の言葉を述べていた。
なのに俺のことを避ける様にして、うん?
森を出て行ったのか。
奴らの立ち去った方向へ目を向けるとぼんやりだが外への抜け道が見えた。
そんなことより、
「いけないっ! ここはゴブリンの巣窟だった場所だ」
こんな所に、しかも丸腰であんな高い所から落下して来ちまった。
せめていつもの装備だけでもあったら良かったんだけど。
そんなわけないんだよ。
俺、どうなっちまうんだ。
辺りの景色がぼんやり滲んで見える。
おや、なんだか彼らが去った方角から人の声がする。
それに周囲の地面にはこげ茶色なでっかい汚物が無数に転がっている。
いったいなんだろうな。
動物の死骸かな。
「うえっぷ、気持ち悪いなぁ」
雲の上から足を滑らせたものだから、死ぬほど焦っていたせいもあって。
ゆっくりと状況を思い返すと地上に降り立ったときに聞こえたセリフに「化け物だ」という声が無数にこだましていたと思う。
その化け物はどこへ消えたんだ。
もしかしたらさっきの彼らがぶっ倒していってくれたのかも。
「おーい! 大丈夫か?」
「え?」
なんだか大勢の人がやって来た。
武器や防具を装備している。
全部で10人はいた。
何者だろうか。
俺に声をかけていることから敵ではないようだ。
「よかった。我々は知らせを受けて出動してきた救援隊だ」
「救援隊ですか?」
「初心者を含む冒険者PTの救援にきたのだが」
「ああ、その人たちならなぜか俺に礼をいって森を出て行かれましたが」
自分たちの救援すべき対象が無事に街へ戻っていった。
それを聞いて安心したのか胸をなで下ろす。
「おい、この有様はいったい!?」
「100体以上の大型ゴブリンが撲滅されている」
「本当だ、完全に死滅しているな」
「救援を呼んだPTのレベルで処理したとは思えない」
俺の周囲で異臭を放って横たわっていたのはゴブリンだったのか。
隊員たちがゴブリンの死因を探るため、死体を物色している。
「やつら全員の目の中になにか挟まっていたんだ。抜き取って来た」
「なんだそれ。薄っぺらな丸っこいもの」
「透明だが自然物ではないようだ。見たこともないものだぞ」
「ところで君の名を聞いていなかったが?」
「俺は猿飛スライム。へんな名だと思うがよそ者だ。それでそいつらの死因は特定できたのか?」
「それがこんなものが目にはまっていた。スライムくん見たことあるかね」
隊員が手にしていたものを手渡して来た。
手触り肌触り、これは俺が異界から持ち込んだアレではないか。
「これは俺の私物です」
同じものを自分の目から取り外して見せてやった。
おお、これは!
彼らは同一の物を見せられて驚いた。
「俺は訳があって空に浮かぶ少数の大地からここに降りてきた。その時の衝撃で目から外れたものが運良く彼らの目に飛び込んだのだろう」
「目に入れるとどうなるんだい、これ」
「まあ、要するに眼鏡ですよ。眼球に直接はめこんで使うものです」
「なんとそのような進化した魔道具もあるんだな」
「そういうことです」
さらに説明を加えた。
視力の悪くない者がつけると見えすぎたり、ピントがずれたりする。
ゴブリン同士は互いに化け物だと叫びながら、同士討ちをして全滅をした。
隊員たちは話し合った。
「これはスライムさまのお手柄になります」
「どうかわれらの街にお立ち寄りください」
「表彰をさせて頂きます。お礼の品物をお受け取りください」
「そういうことなら、遠慮なく。案内してください」
知らないうちに俺の手柄になってしまった。
あの彼らもそのようにいっていたな。
「このような遺物を目には大量に入れて使用するのですか?」
「いや一枚ずつだが、今朝は急いでいて束を目に入れてしまったのだ」
それは単なるミスだと伝えた。
「奥ゆかしいお方だ。ですが感謝します、ありがとう!」
街に案内され表彰とともに英雄という称号階級をもらった。
そしてかつて英雄が使ったとされる貴重な英雄の剣を賜ったのだ。




