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名もなき草原に咲くⅡ  作者: ゼルダのりょーご
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31 驚異の技

・EXP(経験値)。一定数稼ぐと自分のジョブがレベルアップする。

おもに魔物を自力で倒すと獲得できる。

強い敵ほどEXPも大きい。

PTパーティー組んでいる仲間。

 

 好物の果物が大量に集められたからか甘い匂いが森の一角を浮遊する。

 その匂いにつられて姿を現した数匹のゴブリンが俺たちの姿を目にするや否や。

 大興奮のあと、頭部から蒸気をふき上げるように怒りに燃え始めた。


 器用にも角笛を吹き、森に響き渡る音色は仲間に危機を知らせる。

 わらわらと宙に渦巻く蚊柱のように、どこからともなく大軍勢が出現した。


 当然俺たちを取り囲むためだ。

 あっという間に周囲は森に棲むゴブリンで埋め尽くされた。


 おとなしく町へ帰してくれそうにはない。

 スゴイ数のガブメロンを森から強奪しようとする不届き者たちがいる。

 彼らはそのように解釈し、俺たちを生かしておくものかと息巻いている。


 汚染されたような汚い顔立ちのその口元からは、ほぼ噛み合っていない牙が複数こぼれて見えた。

 その口で美味しいガブメロンを頬張ったら、半分以上は顎の下に垂れ流すのだろうことが連想できてしまう。

 まともに物を噛み砕いて満足のいく食事がとれているとは思えない。

 そんな歯並びの悪さであった。

 

 ちょうどいい、【ゴールドピース】とPTを組んだところだ。


 よし俺の戦いをもっとアピールしよう!

 背中のリュックを地に降ろし、鞘から抜き出した短剣が鈍い光を見せると戦闘態勢に入ったのだと思い、彼らは怒りの矛先を俺に向けて来た。



「異様な数が集まって来たぞ! 200個は欲張りすぎたか?」

「ほんとね、怒り狂っているわ!」

「さすがに半分は囮として置いて行きましょうか?」



 せっかく収穫したガブメロンの半数を地面の上にばら撒いて、敵の注意がそこに行っている間に逃げながら応戦しようかと相談しているようだ。


 周囲に姿が視認できるゴブリンの数は50匹ほどだ。

 その遠くにも見張り台が点々と見えており、笛の音が遠くにも聞こえる。

 ここで苦戦をしているとまだまだ奥から這い出してきそうであった。

 戦闘での総数が100匹を超えるとなると回復役のニアが辛くなってしまうな。


 盾役の俺がそれだけの数を処理できないだろうと判断し、同時にPT全体を守るために収穫物を囮にして投げ出そうとするだろう。


 その経験は辺境の地でも幾度も経て来ているから分かる。

 これは俺がやり過ぎた。

 俺の行動の不始末が招いたことだ。

 欲をかいたのは俺だ。


 だが半分もの収穫を投げ出すなんて、



「その必要はないっ!!!」

「ええっ⁉」



 俺は彼らの最前線に立っていた。

 彼らに振り向きもせずにそう叫んだ。

 後衛の3人はどうしてだ、と驚きの声を揃えて上げる。



「半分なら20000Gだぞ。たとえ君たちでもそれだけ稼ぐのに任務ランクからして3日は労し、ここでの収穫なら戦闘は10回に分けるのではないか?」


「でも無茶をし過ぎたら全滅しかねないよ! 背に腹は代えられないぞ、リクル?」

「戦闘での経験値は諦めよう! その代わり収穫は根こそぎ持ち帰るんだ!」



 俺の出した意見に、

 リーダーのニアも「そうできるなら理想なのだけど」と背後で否定的に唱えた。



「この数だ、戦いを避けて突っ切りたい気持ちは俺たちにもある、リクル。君の俊敏さで対応しきれるのか?」


 盗賊のガクトがすかさず尋ねてきた。

 ここで対処にかける時間が長引けば命取りになる。

 策があるのなら早く提示してくれと焦っているのだ。


 よく分かっているさ。

 出会ったばかりだが、いい所を見せようとした俺の責任だ。

 ならば最後まで責任を俺が取りたいのだ。



「みんな、一度荷物を置いて耳の穴を塞いでいてくれっ!」

「えっ!」

「俺を信じてそうしてくれっ!!」



 俺の願いの声にニアが応えてくれた。


「みんな、リクルを信じて任せてみましょう!」


 彼らは出会ったばかりの俺の言葉を信じて荷物を地面に置いた。

 ドサッという音が背後で3つ聞こえた。

 俺は確認のため、彼らに振り返り一瞥した。


 そして耳に栓をするように手でふさいだ。

「これでいいのか?」俺を見つめ返す3人の目がそう語りかける。


 それらをしっかりと見据えた俺は頷き、ゴブリン集団に向き直った。

 ゴブリンたちががやってくる方向に向かい雄たけびを上げた。

 俺が上げる雄叫びは大地をも揺るがすものだ。

 しっかりと耳を塞いでもらわねば仲間の彼らもただでは済まないからだ。


 次の瞬間、見渡す限りのゴブリンが次々とその場にぶっ倒れてしまった。


 ガクトがそっと自分の耳から手を降ろし、目を白黒させる。



「今のはなんだっ! リクル、きみはなにをしたんだ⁉」

「どうして? 何が起こったの! 見に行ってみましょう!」

「……こ、こいつら全部、気絶してやがるぞっ!」

「全部よ、見渡す限り全部よ! あり得ないわ!」



 言われるままに耳を塞いでいたがその光景を目に焼き付けた彼らがその現場に走って行き、状況確認をとったのだ。


 ゴブリン連中は皆、俺の雄叫びで耳をつんざかれて倒れたのだ。

 物音に敏感な大きな耳を持つ、ゴブリンたちだからこそだが。

 伊達に40年もの間、森の中で狩りをしていないぜ。


 これは自分の素性も知らない時代から俺が身に付けていた、

『森羅吸引』という技なのだ。

 獣人族などは相手を威嚇するのに大きな声で吼えることがあり、それは咆哮と呼ばれる。

 咆哮は結果的には声とともに息を吐くものだが、俺の『森羅吸引』は吐くのではなく「吸いこむ」のである。

 

 もっともいまの俺はそれに目覚めているため獣人の「雄叫び」程度ではない。

 威力が竜神のものに近しいと感じるようになっている。


 下等生物種のゴブリンに命を下してやったのだ。

 俺はドラゴン種の言葉が解るだけではない。


 天より地にいたるまでの間に存在する全ての物質と性質を吸引した。

 とでもいっておこうか。


 それによってゴブリンどもが生息するのに本来必要としていた酸素濃度を一気に奪い去ったのだ。そのために奴らは酸欠で卒倒したのだ。


 ガクトたちには急きょ、べつの説明をいれておいた。

 彼らと別れたあとで噂になっては困るからな。

 人の口に戸は立てられぬというし。


 この場に俺ひとりだったなら、倒れたゴブリンたちにはすでに息がない。

 つまり倒れている分の奴らは窒息死させているのだが。

 周囲の酸素を元に戻してやらねば、仲間まで危うくなる。

 すでに酸素濃度は回復しつつある。

 ここではあくまでも逃走する為の一時しのぎの手段として用いた。


 とどめ役は俺にくれるといったので。

 PTを組んでいたので彼らにもその分のEXPは入ったはずだ。

 幾らかのゴブリンはショック死したと思う。

 戦闘なので恨まれる筋合いはないだろう。


 あとでギルドカードを見れば彼らも別の意味で卒倒するかもしれない。

 知らずに入手したEXPの多さにな。




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