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名もなき草原に咲くⅡ  作者: ゼルダのりょーご
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27 ハイエナ


 やつの本当の目的を知ったのは、やつがPTを抜けた直後だった。





 ◇


 


 オーガの彼とPTを続けてバトルを再開した。

 俺は回復もサポートした。

 そういう約束で恨みっこ無しだから。


 ツバクロをさらに3匹おなじフットワーク連携で倒し切った所で。


 彼のギルドカードのお知らせアラームが鳴ったのを聞いた。

 この音は本来、自分にしか聞こえない微々たる音なのだ。

 肌に感じるぐらいのものだ。


 魔道具なのでステータス詳細も自分にしか見えない仕組みのようだ。

 周囲の冒険者の喜ぶリアクションを目にした。

 ギルドカードを取り出していたがそれ以外俺の目にはなにも映らなかった。

 さきほど経験したから知っている。


 彼はさきほどLV9になったばかりだ。


 ツバクロは一匹4EXP。

 3匹だから12EXPのはず。

 いまのアラームはレベルアップを告げる音だった。

 俺は生まれつき常人には聞き取れないような音域も聴き取れる。

 そのためそのことに気づけたのだ。


 ジョブレベルは10までは一律100EXPごとにアップする。

 だからツバクロなら1LVアップで25匹、10LVまでに250匹狩る必要がある。


 合流したばかりの時はどういう状態だったか確認も出来ないし解らなかったが。

 いま3匹で1アップするのは不自然だ。


 この謎は彼に聞けばわかるだろう。



「うわ、やったー! レベルが10になったぁ!」


「やはりな。それはなぜなのだ? なぜ3匹でワンアップしたのだ?」



 オーガの彼は俺の向けた疑問には答えずに街へ戻りたいと告げてきた。



「わるい、オレが先に10になったのでPTは抜けさせてもらうよ。君も頑張ってな」


「え、ちょっと……」



 別れの言葉を残し、喜びながら街へと去って行った。

 まあ最初からそういう約束だったから仕方ないけど。

 すると周囲にいた人間のPTが俺に近づき声をかけてきた。



「キミ、いま一人かい?」



 若い男だった。



「ああそうだけど。なんですか?」


「さっきから近くで戦い振りを見ていたんだ。なかなかのフットワークで見事だったしほぼ無傷だったじゃないか」


「戦い振りを褒められるなんて、嬉しいよ。ありがとう…」


「どうだい、こっちのPTに来ないか?」



 お、PTへのお誘いだ。

 ラッキー。



「俺はポポクロンのリクル、戦士2だ。まだ初心者だけどよろしくな」


「なんだって? あの立ち回り方からは初心者とは思えなかったが」


「そちらさんは?」


「わたしがリーダーで僧侶よ。この二人は盗賊と魔法使いよ」



 はじめに声を掛けて来たのは盗賊の男だった。

 僧侶のリーダーと魔法使いは女だった。

 合計3人のPTのようだ。皆、人族(人間)だ。

 どれも20歳ぐらいだろうか。



「わたしたちツバクロのドロップを狙って狩りをしているの。盗賊が「盗む」スキルを持っているから彼が行動してからとどめを差して欲しいの。とどめ役は譲るわよ!」


「譲るってなんのことだ? べつに順番なんか……」



 出会ったばかりの3人は顔を見合わせた。

 3人はなぜか眉根を寄せていた。



「あなたもしかしてとどめ役の意味をしらないの?」


「なにかあるの?」


「冒険初心者がとどめを差すと経験値が5倍入手できるのよ!」


「さっきのオーガが街に戻ったってことは10になったんだな……」


「10になると街に戻る特別な意味があるの?」


「キミ、マジで初心者なの? 他のバトルジョブも1だったりする?」



 俺は素直に頷いた。

 少し前にギルドでの冒険者登録を終えたばかりだと伝えた。

 他のバトルジョブが1というよりジョブチェンジすら未経験だ。



「ねえ、さっきのオーガは知り合いなのよね?」


「いやさっき、そこで──」



 魔法使いの女が意味深に確認をとってくる。

 以前からの知り合いかということだろうから、俺は首を横に振った。

 組んでいた経緯を話すと3人は、声を揃えて「あっちゃ──!」といった。


 なにがどうしたというのだ。



「あいつ確信犯だな」


「そうね。間違いないわ」


「リクルくんは「ハイエナ」行為をされたのよ!」


「いい? あなたみたいな初心者がPTにいると、魔物にとどめを差す人だけ入手経験値が5倍になるの!」



 はあ?

 なにそれ。聞いてないんだけど。



「キミ、あいつと組んでから都合、何匹倒したの?」


「えっと20匹の時に俺もオーガもレベルがあがった。そこから3匹だけど」



 20匹の時のオーガのレベルは? と盗賊の男の子が聞くので9だと答えた。

 3人はまた呆れ顔で顔を見合わせた。



「あいつキミに声を掛けたとき、戦士1だったな」


「絶対そうね。パッシブスキルの「ゴールドエクスペリエンス」を取得しているのよ」


「通称「GEXP(ジーエクス)」よ。盗賊レベルを50まで鍛えると取得できるのよ!」


「おれもまだ持ってないよ。おれ、盗賊は14だから」



 彼らは他のバトルジョブのレベルも少しずつだが、すでに上げているらしい。

 その会話から、冒険者としての知識、常識を俺より多く持っているようだ。

 さっきのオーガの謎が解けるならと、彼らの話に必死に喰らい付く。



「効能は経験値かゴールドのどちらかを2倍取得できるんだけど、スキル取得時にどちらかを選ばなきゃならないの。あいつはEXPを選んだみたいね」



 教わったことを整理するとこうなる。



 ツバクロ1匹通常4EXP。

 あのオーガは常時EXP2倍で、ツバクロ1匹8EXP。

 俺の初心者サポートの恩恵により、とどめ役の5倍。


 ツバクロ1匹40EXPを取得していた。

 俺と組んで20匹だから、800EXPを入手。


 レベル1から2になるのに100EXPだから、800だとレベル9まで上がる。



「ただ5倍サポートはPTを組むことが条件なのよ。ソロには適用されないよ」


「同意の上なら今さら苦情は通らないわね。初心者サポは初期ジョブのレベルが10を越えなければずっと受けられるのよ! これを逆手にとって強い人と組んで相手にはEXPを取らせてあげて自分は報酬をもらうなんて稼ぎ方が流行ってるのよ」


「キミ、レベル10になるとカンストするからね。その意味はわかるよね?」



 カウントストップという意味だな。

 それぐらい知っている。


 

「だからギルドに行って申請をしてレベルの解放してもらわなければ、いつまで経っても11にはならないよ」って盗賊くんが親切に教えてくれたのだ。


「カンスト制度はあなたみたいな被害者が出るからよ。相手が20、30とレベルを上げてから気づいて苦情を出してもギルドは対処できないの。冒険者同士の世界に詐欺罪は適用されない。だから騙されて悔しければ自分の手でカタを付けるしかないのよ」


「人を雇ってでも復讐を遂げる人たちもいるわよ。冒険に出たら命の保証なんてないし、だれも守ってくれない自分だけよ。自分が助かるために仲間を見捨てても罪にならないけど、恨みは買うでしょうね」


「同意を得てないとか約束をしたから、そのやり取りは法的に全て取引と見なされるんだ。取引に失敗して損をしても自業自得さ。だから皆はやく強くなりたいわけだ。冒険者世界は強さだけが物を言う、見返したい相手がいるなら強く成るしかない。そんな世界さ」



 俺は冒険者の知識がないゆえ、まんまとオーガに乗せられてカモにされた。

 せめて前もって知っていればこうはならなかった。


 勉強をさせてもらった。

 ずるいオーガのことは忘れてやる。

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