26 パーティーの申し込み
街の周辺でパーティーを組んでくれそうな冒険者を探す。
雑草が生い茂る平地で遠目には岩場もちらほらと見える場所だった。
探そうと見渡すのだけれど、皆すでにPTを組んでいらっしゃるようで。
なんとも声を掛けづらい。
冒険者一年生の方、いらっしゃいませんか?
力不足なので……いやレベル不足なので力を貸してくれませんか?
その言葉でよいのか。
それは格好悪かったり、恥ずかしい行為だったりしないか。
もしそうだったら、声を掛けられた相手だって恥ずかしいわけで。
「だは……。けっきょく一人でやってますわ」
ツバクロを一体、また一体。丁寧に片付けています。
鳥系の動きがわりと素早くて攻撃が空振りすることもある。
相手はすかさず飛び掛かってきて、顔面を足の爪で引っかいてきた。
「くそっ!」
歯を食いしばりながらやっと5匹めを処理したところだ。
受けた任務そのものの場所にまだたどり着けていない。
先は長そうだ、これが冒険者のレベル上げというやつか。
ヘンピ村の連中によく指摘を受けていたっけ。
なじみが出来て皆でいる時はすぐに打ち溶けられるが、単独になると急に人見知りになる性格は早く克服しておいたほうがよいぞ。
あの時の俺はその意味は考えないようにしていた。
それまでも独りで生きて居たのだと。
その時は皆と過ごすのが楽しくて深く考えていなかった。
そのため時間が解決してくれるのではないかと錯覚に陥っていたようだ。
自分のこととなると、なかなか克服できないものがある。
だけど周囲は人間の冒険者ばかりが目立つ。
俺の存在も目に入っているのだろうが。
この容姿ではな。
弱そうだ、使えるのかあいつ。
お荷物にならないか、こちらばかりが戦わせられそうだ。
戦力不足の目で見られているのだろうな。
仕方ないさ。
レベル1だからな。
ぶつくさは心にしまって、黙々とツバクロを狩っていると。
「え?」
いま俺に声掛けをしてきた男がいた?
振り返ると、大柄の男子20歳ぐらいだろうか。
棒立ちで、俺が返事をするのをもじもじと待っていたのだ。
シャイなのかな。
だが彼も人間ではなかった。
そうか君も他種族のようだな。
「一緒にレベル上げをしませんか? オレで良ければですが……」
わあ、悪いわけなどあるかい!
喜んで組んでもらおうじゃないか。
俺は二言返事でOKを出した。
PTの申し込みが舞い込んでくるなんてラッキー!
「オレ、オーガの戦士です。まだツバクロしか倒せないんだけど」
「おなじだ。俺はポポクロンのリクル。戦士だ、よろしくな」
オーガか。
出会うのは初めてだ。
身の丈は俺の5倍はあるな。
戦士二人か。
作業が2倍は捗る感じか。
いや3倍かな、彼のほうがガッツとパワーがありそうだ。
ここはひとつ、愛想をつかされてお別れが来ないように頑張らなきゃ。
組んで間もなく、一匹のツバクロとエンカウントした。
まずは俺が果敢に攻めて行く。
俺は軽快なフットワークでツバクロに3回連続で攻撃を当てた。
彼にも出番をあげなきゃな。
どうぞと言わんばかりに後退した。
あとは任せろといった表情で斬りかかっていった。
彼も一発で決めた。
ツバクロは息絶えた。
さすが鬼族と呼ばれる種族だ。
豪快に攻撃をヒットさせると敵は3mは弾け飛んだ。
「すごい破壊力だね! さすがオーガ族だ」
「いいね! 君の素早さが素晴らしいんだよ。この連携でしばらくやろうよ」
お、嬉しいこと言ってくれる。
彼の提案を拒む理由はない。
このフットワークをリズムづけて行けば早いぞ!
そろそろ、俺は25匹目になる。
次ので確実に1アップする。
「まずいな。3匹現れやがった! 変わらずに一匹ずつ仕留めよう。コツはつかめたからフットワークをだいじにしよう!」
「よし。右の奴からだ。それっ!」
「中央と左のやつが向かって来たらオレが庇ってやるから3連で頼むぜ兄弟っ!」
きょ、兄弟って。
そんなに信頼してくれるんかい。
超うれしいぜ。
彼は俺の右側にいて、中央と左のツバクロからの攻撃は受けづらい。
それなのに回り込んで俺を庇ってくれるというのだな。
討伐隊の駆け出しの頃、よく先輩たちが見せてくれたファインプレーという奴だ。
「よし、右のは3回当てたから任せた。つぎは中央の奴だ」
「オッケェ! 楽勝だぜ!」
右の奴は彼がとどめを差してくれる。
そして中央のも、左のやつも。
俺が先制で3連ヒットさせたあと、彼が一発強烈なのを入れて倒す。
すべて片付いた。
ギルドカードが音を立てている。
ちらりと素早く確認をすると、戦士レベルが2と表示されていた。
ひゃっほう!
「いやっほうー!! これで9だぜ!」
オーガの彼のほうもレベルが上がったみたいだ。
だがレベルが9だといって悦びの声を上げている。
彼とは元々どのレベルで出会ったかは未確認だったし。
もともとレベル差はあったのだろう。
あんなに強い一撃を繰り出せるのだし。
この連携プレイでやることには俺も同意しているから。
俺も楽ができたわけだから。
すると彼が突然切り出して来た。
「あと25匹狩れば、君のレベルもさらに1アップするだろうけど、そこまで付き合えるかわからない。戦い続けで、体力がもう殆どなくてな……」
ああ。
それはそうだろうよ。
そのレベルになるまでツバクロだけだったなら。
相当ここらで粘り強く戦闘したんだろうに。
俺のこともちゃんと庇ってくれて、身代わりでダメージを喰らっていたのだから。
「ありがとう、気にすることはないよ。出会えて良かったよ」
「オレもあと少しで10になる。そしたらランク上の依頼もこなせるらしいから頑張りてぇ。昨日の昼頃に戦士になったばかりで張り切り過ぎて、ポーションも宿代も使い切っちまった……」
たったの一日半で9になったっていうのか。
俺は彼のファイトの応援もしたくなったから。
「あと少しじゃないか。このまま一緒に乗り切らないか? 回復なら俺ができるから……まあ無理強いはしないけど」
「ほ、本当か? あとで恨みっこなしだぜ。そういうことならやらせてもらう。オレのほうが強いのに前衛を任せてしまって…さっきから申し訳ないきもちで一杯だったんだ。回復も金もねぇ、この討伐の報酬もじつはギルドに前借でよ……」
彼は息を切らしながら、
「早く強くなりたい一心で無茶をした」と苦笑いを見せた。
俺はギルドカードにPT全回復を要求した。
音声が聴こえて、『お二人ですので2回分の消費になります』と承った。




