25 基本を大切に
ギルドの受付嬢が手渡してくれたギルドカード。
街の外に出た瞬間にピィピィと小さな電子音が聴こえた。
なんだろうと首からぶら下げていたギルドカードを手に取り、見てみると。
音声でメッセージが聴こえた。
その声は、あの受付嬢のものではなかった。
そして、こう言っている。
『登録した名前とジョブを教えてください……』
うん?
もしかしてこのカード、喋るのか。
機械的なものかと思い、一度は無視してみた。
すると再度、
『冒険者さま、登録されたお名前と現在のジョブをお教えください』
先ほどよりも言葉が丁寧になり、より詳しく聞かれていると分かる。
なぜそれを知りたがるのかと、独り言のようにつぶやくと。
『あなた様の目的が無事に遂行されるようにアドバイスを差し上げたいのです』
きちんと返答をしてくるではないか。
だが例えば、すでに上級者でアドバイスが煩わしい者にもするのかと尋ねると。
『不要である時は、その旨、お伝えくだされば除去致します。不必要ですか?』
なるほど。
賢者たちに聞かされていた魔道具というものが、これに当たる。
大変便利なものであるようだ。
「不必要なものか! 俺の名は、リクル。戦士だ。種族や年齢はいいのか?」
『まずアドバイスの場合は名前とジョブだけで照合し、他者と問題が生じたときには種族等をお訪ねするようになっています』
おおそうか。
ますます便利だ。
「それで何を教えてくれるのだ?」
『リクル様のジョブレベルは現在1です。目的は採取依頼でガブメロン10個を納品。Fランクの依頼ですが目的の果物が採取できるポイントはこの街の北にある、『ゴブガブの森』になります』
「ゴブガブの森。明確な場所まで教えてくれるのは有難いな」
だが、その名を知ったところで金網ででも囲ってあるのか?
近づいたらまた知らせてくれるのか。
どこからどこまでがその森なのか、果物のよく採れるポイントも聞けるのか。
質問をしてみると。
『そこまでの詳細を今はお答えできません。リクル様が経験をなさったことは記録されていきますが。今回のアドバイスは、森にゴブリンが出没する点です。レベル1の戦士ですと戦闘になったらかなり厳しいと判断されますので……』
なるほど。敗北を期さないための、か。
しかし、ゴブリンぐらいなら、これまでも討伐の経験が幾らでもある。
初心者ではないが一応聞いてみるのも悪くない。
「厳しいと判断するのはなぜだ?」
『この森のゴブリンは主食となるガブメロンが侵入者の手で採取されることを嫌いますから死守するのです。採取は出来るでしょうが、彼らが生きて森を出してくれる保証がないからです』
なるほど、死活問題を抱えているから集団に囲まれる恐れがある。
尚且つ、それは自分たちの食料だと怒り狂っているような状況なのだな。
採取の現場を見つけられれば、彼らは俺を八つ裂きにする準備に入るわけだ。
「これは知っておいて損はない情報だったな。だが勝ち目がないのでは行っても無駄足になってしまうから、やめて置けという警告なのか?」
『冒険者に警告など発しません。アドバイスが役に立つ保証もありませんが、冒険のヒントになればと提供しているだけです』
警告を発しない。
この情報提供は冒険者ギルドが取り組んでいるのだな。
むしろ冒険はしろ、ということなんだな。
「ではアドバイスとは何だ? かくれんぼでもして歩けというのか」
『いえいえ。戦う相手を選んで、まずはレベルアップを目指すのがオススメになります』
「戦士のレベルを上げるのか。ゴブリンより弱い敵を見つけるために戦った相手が強かったら元も子もないのではないか?」
『ふつうはそうなるのですが、リクル様は初心者ですのでお教えできるのです』
おおそうか!
初心者は特別計らいなのだな、それは有難い。
ならば遠慮なく弱い敵の情報を聞いておこう。
『街の北周辺を歩いているツバクロという鳥の魔物がウヨウヨといます。ほとんど空を飛ばない黒鳥なのでそう呼ばれています。素早い鳥系には短剣が有効です。リクル様の装備がちょうど短剣ですのでこの辺りでレベルアップをして、5まで上げれば森に行っても問題ないと思われます』
5も上げる必要があるのか。
この界隈のゴブリンがそれだけ危険だということなのだな。
「レベルを5にするのに何匹ぐらい狩ればよいのだ? それは日暮れまでに終われそうか?」
『戦士が5になるには、ツバクロですと125匹倒す必要があります』
はあ?
「一匹たおす所要時間は平均どのぐらいなの?」
『戦士1ですと、短剣で4回攻撃できれば倒せます。相手の攻撃をすべて避ければいいですが、現在の装備ですと一度喰らうと体力を5は削られます。リクル様の体力は現在250となっておりますので、50回攻撃を受ける前に一度街に戻り、宿で休憩することをオススメします」
ツバクロ一匹4EXP、1アップするのに必要EXPが100なので25匹。
レベル10までは一律100EXPで1アップ。
その内訳はギルドカードに記載されていくようなのでチェックをせよと。
相手は魔物だ。
自分の命を取られようというのに、無条件で討たせてくれはせぬ。
当然反撃はある。
奇跡的にすべて避けられたとしても素早い鳥系に、一匹につき4回斬りつけるのには3分はかかりそう。
村で飼っていた鶏が逃げ出した時に素早くて捕まえるのに苦労した経験がある。
魔物の種類によっても戦闘が有利にならないものもいると知っておかねば。
その意味でもこの経験は積んで置くか。
『リクル様、お一人で辛いときはPTを組むという手段もあります。他の駆け出しの冒険者も周辺にウヨウヨといますので声を掛けて見てはいかがですか?』
ギルドカードのアドバイスは以上のようだ。
受付嬢のアドバイスも同じだったな。
結局有力なのはPTを組むのが効率につながるようだ。
何事も基本が大切である。
それならPTを組むという方向性で活動を始めてみるか。




