言霊vs予言
「賢き」トトの言霊と、「魔女」ヘカテの予言がぶつかりあう、舞台は貴族競馬場、刻はまもなく満月が天の頂に達する時であった。トトのガソリンエンジンとヘカテの蒸気エンジンのどちらが上かという点で、でも興味が持たれるカードでもある。
最新かつ、運用に難のあるガソリンエンジンだが一分という時限のきられた勝負では不利さが見えず、ヘカテの蒸気エンジンは短期間では安定という面が注目されず、短所ばかりが先行する形となった。
時計卿は地下から登場するいつものスタイルもできないい。
貴族競馬場が芝の育成のため、散水栓と配水のための菅が回らされているためだ。
月光を浴びて二体の巨体が聳え立つ月が天頂に達した。
「賢き」トトは朱鷺の首お頂き、背中に一対の翼状の放熱機関が回らされている。
月神祭を初めてみるものの殆どが「飛べるのか?」と疑問を持つ巨神であった。
放熱器に隠されるように、ガソリンエンジンが眠れる獅子の如き唸り声をあげている。
一方、向かい合う「魔女」ヘカテは修復した腕と脚を補修し、右腕に大振りなクローを追加装備している。
後頭部から多数の鎖が靡く。
背部には蒸気機関がドラゴンの如く、その下の黒い煙を噴き上げていた。
「最先端が常に良きものではないと、この一戦で証明しよう」
時計卿が静かに宣言した。
「かび臭いぞ、時計卿!」
先進卿ががトトを突っ込ませる。
競走馬と比べ物にならない大質量が地面の下の配水管を歪ませ、水を排出させた。
ヘカテは頭を振り回し、後頭部の放熱鎖を大きく広げる。
時計卿は操縦桿を手早く操作すると、放熱鎖は芝生目がけて打ち込ませる。更に漏水を加速させた。
トトは足元がおぼつかないものの、大出力に任せて前進、ヘカテの腰にタックルを浴びせた。
大音響が響き、ヘカテが下になって、巨神たちは倒れ伏す。
時計卿は首元の操縦席から転がり出た。
方や、先進卿はシートベルトで身体を固定され飛び出させない。
「なるほど、先端技術も偶には悪くないものだな」
時計卿は大振りなリボルバーを取り出し、トトのガソリンタンクに狙いをつけた。雨のように排水管から、水が降り注ぐ。
「当たれ」
時計卿は呟きつつ引き金を絞る。
次の瞬間、トトのガソリンタンクが焔と燃えた。
降り注ぐ水と漏れ出したガソリンが混じり合い、炎が広がっていく。
「ヤキトリか」
時計卿はそれだけつぶやくと、ヘカテの操縦席に戻り、魔女を立ち上がらせる。
「ジャスト一分、予言通り」
その言葉はトトから、いや先進卿から発せられた。
「ルール違反とは言うまい。生身で戦闘を継続することを禁じるルールはまだない」
先進卿の言葉は、この策を二度とさせないという、確かな決意で燃えていた。
「対人兵装を搭載する余裕は巨神にはなさそうだな。二度は通じない、大博打だよ」
時計卿の言葉に 先進卿は両手を挙げた。
「だが、ここから、詭計なくして調和卿にはどう勝つ? 時計卿」
「向こうから、勝利条件がないのはきついな」
時計卿は心底困ったようだった。