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巨神は古都に聳え立ち  作者: 成瀬丈二
3/5

祝!決勝トーナメント籤引きの後は乱闘で

 月神祭の決勝トーナメント進出四騎は決まった。

 不戦を定められた、一ヶ月の準備期間を経て、くじ引きで改めて組み合わせが決定される。

 ヨシュア少年は時計卿の従者として、くじ引き会場に時計卿ともども姿を現すのだった。

 まばゆい会場に主役として現れた四人は、いかにも知的な青年「調和卿」。まだ少年らしさの抜けていない小柄な「先進卿」糸杉のような、長身痩躯な「魔神卿」。

 そして「時計卿」であった。

「時計卿よ、借金を抱えて逃げ出す準備はいいか?」

 そう調和卿は悪趣味な毒舌の火蓋を切る。

 彼の巨神は「古典」アリアンロッド、月から持ち込まれた様々なオーパーツを大胆に盛り込んでいる。

「魔神卿と相打ちになってもらいたい、大穴でブックメーカーは悔しがるでしょう」

 肩をすくめる先進卿。

 彼の巨神は「賢き」トト、時代時代の最先端技術を巨神に盛り込んでいる.

 今回は差分演算機関の擬似未来予測と大出力のガソリンエンジンが二枚看板となっている。

「面倒だから、この会場に隕石でも落ちて俺以外皆昇天しろ!」

 言いながら魔神卿はシャンパングラスを床に叩きつける。その蛮族じみた行いを時計卿は見てみぬふりをする。

魔神卿の巨神「無限再生」のソーマは、麗しい名前とは裏腹に月から持ち込まれた、再生能力のオーパーツにより有機部品を生み出して破損箇所を補填し、無限に戦い続けるまさに魔神だ。  ただ、勝負に勝っても、試合に負ける事が多い巨神である。

「実に洒落た懐古だな、56年ぶりでも変わらない。先進卿はもちろん知っているだろうが」

 時計卿の巨神「魔女」ヘカテは全体に優れた機体能力と、未来執行機関と呼ばれるオーパーツが主要能力である。

 執行機関は自身の予知した未来を実現させようと、搭乗者を従属させる能動的な未来予測を行うものだ。

 先進卿は赤い唇を綻ばせ。

「受け継いだ記憶通りで安心しましたよ。百十二年前の戦いで、巨神に蒸気機関を初めて搭載した先代が、先代の時計卿の撃ち破り、月に帰ったこともよく覚えていますよ」

 先進卿の言葉を聞くヨシュア、少年は時計卿の枕語りで巨神の乗り手たちは、戦死した時に備えて、予め自分の後継者に自身の記憶を継承することは教えられていた。

 記憶を継承することで肉体の老化はその歩みを止めるのだ。

外見の美醜、能力では後継者は選べない、あくまで直感のみが選択をさせる。

 恋愛、あるいは擬似恋愛関係になるのかも、当人同士の意志となる、時計卿とヨシュアの場合、いい趣味をしていると言われて大半の巨神乗りからはスルーされるだろう。

 記憶の継承は月の魔女の秘儀によるもので現在は代々の継承者にしか使えない。

 

 ただ、記憶の継承で受け継がれないものもある、月の記憶だ。

 代わりに旅愁の如き妄執のみが植え付けられる。

 まるで駄々っ子のように二十八年に一度の月神祭に備えて、己の巨神を育むのだ。


 陰険漫才が終わり、古都のお偉方の空虚なスピーチが終わると、楽団の勇壮な合奏とともに、一連のくじを引く空虚な儀式が四度行なわれた。

 準決勝の組み合わせが決された。

 第一試合

 魔神卿:「無限再生」ソーマ

 VS

 調和卿:「古典」アリアンロッド 

 第二試合

 先進卿 :「賢き」トト

 VS

 時計卿:「魔女」ヘカテ

 

 が、運命の組み合わせとなった。

 

 組み合わせが決まった時、先進卿が、時計卿の胸に己の人差し指を突きつける。

 「一分だ。一分で試合を終わらせる。戦いの場は貴族競馬場、刻は次の満月が天の頂に達した瞬間。記憶の継承は済ませておくといい、これが三倍も偉大なトトの言霊だ」

 宣言に周囲はどよめく、

「ならば、こちらも宣言しよう。

 試合開始後一分で先進卿は試合を放棄すると─これは魔女の予言也。トト神は自慢のガソリンエンジンでも磨いておけ」

「かくして、運命のカードは混ぜられた」

 調和卿の宣言。

 だが、せっかちな魔神卿は、カードが決まった瞬間に、調和卿と戦いに及んだ。

 有機的フォルム、或いは鋼鉄製の肉塊ともいうべき巨神ソーマが、下水道から這い出し戦闘準備を整えた段階で、調和卿は、懐からカードを取り出し、さけぶのだった

「来たれアリアンロッド!」

 鏡を 力いっぱい叩き割ったように空間が砕け散る。

 中から現れる、女声的なフォルムの白銀の女神像。アリアンロッドだ。

「『モード:フラガラッハ』首を落とせ」

 調和卿はソーマに指を伸ばした.

 アリアンロッドの右手、肘から先が青銅の剣へと、変形変貌する。

「アタック! 首を落とせ」

 調和卿が手刀で延長線上の首を落とすようなジェスチャーをする。

 アリアンロッドの右手が大きく弧を描く。

 ルナの首がすんだ音を立てて、道路へと崩れ落ちる。

 だが、ソーマの動きは止まらない。

 試合は終わったが、魔神卿が納得しないのだ。

「フラガラッハ、十字を刻め! 臓物をぶち撒けろ」

アリアンロッドの右腕が光り輝き空に十字を描いた。するとソーマの腹部が十文字に傷が入り、内側から爆ぜると、鋼鉄の臓器がまろび出た。

 続けてオイルが溢れる。

  調和卿は関係者に確認する。

「これは正式な試合だな、私闘ではないな」 

 なにやら、無限に戦闘できない制約がありそうだ。蒸気機関が持たない以外でも、組み込まれているオーパーツ自体に限度があるのだ。

 こうして、決勝はアリアンロッドと、第二試合勝者がぶつかるのだろう

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