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巨神は古都に聳え立ち  作者: 成瀬丈二
1/5

卑怯もラッキョもあるものか!

古都レオンを吹く風は南方の熱気をはらんでいた。

かつては魔法文明の担い手であったこの都市も王座を移してからというもの、産業は観光主体となり、政治闘争の主役は他の都市に譲っている。

「とでも、明日の朝刊にはでるのだろう」

 喫茶室でレオンプレスの新人記者リリーは言われた言葉をメモする。発したのは目の前の紳士「時計卿」だ。

 この場所は彼が指定した。

 長身痩躯、黒い長髪にモノクルの青年だ。

「時計卿」は右手に持った、古風な懐中時計で、自らの発した言葉の羅列が正しい速度で発されているか計測している。とさえ見える。

 リリーの感情より、自分自身の正確さのほうに興味があるとしかおもえなかった。

 実際、大聖堂の天体時計のマスターはこの紳士の歩幅が基準とされている。

「では、28年ぶりの月神祭りも、予定通りに開催されますが、前回の優勝者として、やはり全機予告通りに撃破されることにこだわるのでしょうか?」「然り、28年前の準決勝は「ツクヨミ」の自決というかたちで不本意な幕引きとなった。今回は自決のヒマは与えない。時間通りに勝利し、月に帰還する」

 月神祭りとは、28年に一度、永遠の理想郷、月から来た十二人の魔女、あるいはそお後継者でる、「卿」たちが、月に帰る権利をかけ、魔法と歯車と蒸気で動く巨大なヒトガタ、人が作りし人、乗り組んで動かす巨神であらそうのだ。

 巨神は異世界お月神の名が冠されている、それゆえの月神祭り。

「我が「ヘカテ」はどんな不意打ちにも遅れを取らぬ」

「では、我が月神ツクヨミ参る! 睡蓮卿の後継者リリ・マクスウェル挑戦する!」

「よかった。睡蓮卿が挑戦してくれて」


時計卿は懐中時計の蓋を閉じた。

 次の瞬間大地が揺れ石畳は次々に捲れがっていく。


 放熱用に頭から垂れ下がったチェーンの束はは焼け付いたオイルの匂いを漂わせながら小ぶりな胸部、ほっそりした、腕部腹部腰部に連なっていく。リペット打ちされたドレスの下、指先から背骨まで、全身から百万を越す歯車による回転音の合唱は通り全体に響き渡っていた。

 胸元に時計卿が乗り込むと、

「私の方から挑発しなければいけないところだった。それは予定が狂う」

 ヘカテが土煙の向こうのツクヨミを見据える。

「安い挑発だ」

 言葉の応酬の間にもヘカテの精密時計の時刻はゼロへとちかづいていく。

「先代は安いプライドを守るために安い自刃をしたな」

「お婆さまを愚弄するか」

「私のプライドを傷つけることはできたな」

「ほざけ」

 挑発に耐えきれなくなったツクヨミとリリーは踏み越えてはいけない一歩を超えてしまう。

 刹那、精密時計の数字は全てがゼロになる。

 ヘカテが叫ぶ。

 瞬間! 頭部の放熱チェーンが唸り声と共にツクヨミあ咄嗟に持ち上げた左腕へとからみつく。巻き取られていくチェーンはツクヨミを引き倒す。

 ZBAN!

 ヘカテは鋼の脚でツクヨミの首をへし折った。

 その電光石火の攻防が月神祭の嚆矢だっ古都レオンを吹く風は南方の熱気をはらんでいた。

かつては魔法文明の担い手であったこの都市も王座を移してからというもの、産業は観光主体となり、政治闘争の主役は他の都市に譲っている。

「とでも、明日の朝刊にはでるのだろう」

 喫茶室でレオンプレスの新人記者リリーは言われた言葉をメモする。発したのは目の前の紳士「時計卿」だ。

 この場所は彼が指定した。

 長身痩躯、黒い長髪にモノクルの青年だ。

「時計卿」は右手に持った、古風な懐中時計で、自らの発した言葉の羅列が正しい速度で発されているか計測している。とさえ見える。

 リリーの感情より、自分自身の正確さのほうに興味があるとしかおもえなかった。

 実際、大聖堂の天体時計のマスターはこの紳士の歩幅が基準とされている。

「では、28年ぶりの月神祭りも、予定通りに開催されますが、前回の優勝者として、やはり全機予告通りに撃破されることにこだわるのでしょうか?」「然り、28年前の準決勝は「ツクヨミ」の自決というかたちで不本意な幕引きとなった。今回は自決のヒマは与えない。時間通りに勝利し、月に帰還する」

 月神祭りとは、28年に一度、永遠の理想郷、月から来た十二人の魔女、あるいはそお後継者でる、「卿」たちが、月に帰る権利をかけ、魔法と歯車と蒸気で動く巨大なヒトガタ、人が作りし人、乗り組んで動かす巨神であらそうのだ。

 巨神は異世界お月神の名が冠されている、それゆえの月神祭り。

「我が「ヘカテ」はどんな不意打ちにも遅れを取らぬ」

「では、我が月神ツクヨミ参る! 睡蓮卿の後継者リリ・マクスウェル挑戦する!」

「よかった。睡蓮卿が挑戦してくれて」


時計卿は懐中時計の蓋を閉じた。

 次の瞬間大地が揺れ石畳は次々に捲れがっていく。


 放熱用に頭から垂れ下がったチェーンの束はは焼け付いたオイルの匂いを漂わせながら小ぶりな胸部、ほっそりした、腕部腹部腰部に連なっていく。リペット打ちされたドレスの下、指先から背骨まで、全身から百万を越す歯車による回転音の合唱は通り全体に響き渡っていた。

 胸元に時計卿が乗り込むと、

「私の方から挑発しなければいけないところだった。それは予定が狂う」

 ヘカテが土煙の向こうのツクヨミを見据える。

「安い挑発だ」

 言葉の応酬の間にもヘカテの精密時計の時刻はゼロへとちかづいていく。

「先代は安いプライドを守るために安い自刃をしたな」

「お婆さまを愚弄するか」

「私のプライドを傷つけることはできたな」

「ほざけ」

 挑発に耐えきれなくなったツクヨミとリリーは踏み越えてはいけない一歩を超えてしまう。

 刹那、精密時計の数字は全てがゼロになる。

 ヘカテが叫ぶ。

 瞬間! 頭部の放熱チェーンが唸り声と共にツクヨミあ咄嗟に持ち上げた左腕へとからみつく。巻き取られていくチェーンはツクヨミを引き倒す。

 ZBAN!

 ヘカテは鋼の脚でツクヨミの首をへし折った。

 その電光石火の攻防が月神祭の嚆矢だった。た。

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