表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/125

この世界のルール

ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。

 王都を飛び去ってから数時間…現在二人は、大森林の真上を飛んでいた。時折、遠くを飛ぶ鳥たちの姿が見えるが、決して近寄ってはこない。先程まで、眼下に広がる雄大な景色を前に言葉を失い目を輝かせていた天児は、マリアロイゼの顔を見上げて、声をかける。


「ロゼさん、大丈夫ですか?もうずいぶん長い時間飛んでますけど…」


「問題ございませんわ。この『世界樹の大森林』を抜けるには、まだもう少し時間がかかりますが、ここを抜けてしまえば、当分追手の心配はいりませんから」


 明るい声でそう応えるマリアロイゼ。天児が正面を見てみると、確かにまだまだ森は続いていて、終わりは見えない。代わりに、とてつもなく巨大な樹木へと近づいているのが解った。


「あの大きな樹は…?」


「あれが世界樹アクシス。女神によって産み出された、この世界を支える神樹ですわ」


「世界樹、アクシス…」


 アクシスまでは、まだかなりの距離があるはずだが、その大きさは目を見張るものがあった。その幹は少なくとも十数km以上はありそうだし、天辺は二人が飛んでいる場所よりも、さらにはるか上空まで伸びており、目で見る事はできない。

 一部は雲までかかっているのだから、とにかくとんでもない大きさだ。


 見張りの尖塔から飛ぶ際に、何か山のようなものが見えていたが、まさかあれが樹だったとは…天児はこの世界にきてから、驚いてばかりである。


「凄いなぁ…この景色、美琴にも見せてやりたいな…」


 つい、元の世界に残してきた娘の名前を呟いてしまった。


 ちょうど病院で見舞いをした帰り道に、この世界へ連れてこられてしまったが、あのときは夜だったはずだ。しかし、この世界に来たのは、少なくとも午前である。

 元の世界とどのくらいの時差があるのか解らないが、幼い娘が天児を待っている事を思うと、一刻も早く娘の元へ帰りたかった。思わず涙ぐんでしまった天児を、マリアロイゼは先程よりも強く、それでいて優しく抱き締めている。


「テンジ様…本当に、本当に申し訳ございません。私どもの勝手で、娘さんとも離れ離れにさせてしまって…あの粗大ゴミは何故あのような暴挙に出たのか、これでは拉致も同然ですわ…!」


 マリアロイゼは唇を噛み、悔しそうな声で、元婚約者の蛮行を悔いている。しかし、手違いで召喚されたとはいえ、これがもし成功していたら自分とは違う別の女性がこの世界へ呼び込まれてしまったのだと思うと、天児は我が身を嘆いてばかりではいられなかった。


「そもそも、聖女召喚ってなんなんですかね…僕は、この世界の事をほとんど何も知りませんが、聖女を呼び出して、何をさせるつもりだったんでしょう?」


 その天児の問いかけに、マリアロイゼは深くため息を一つ吐いてから、答えた。


「この世界は、私達をお創りになった女神『エリクシア』のルールによって構成されているのですわ。『転生』と呼ばれるそのルールで、私達は命を終えた後も、再びこの世界のどこかに生まれ落ちることが決まっているのです」


「転生…ですか」


「はい、ただその為には、寿命を迎えることが必要なのですが…残念ながら、全ての生命が穏やかに命を終える事が出来るわけではございません。事故や病、あるいは殺害のような形で亡くなってしまった魂は、瘴気と呼ばれる存在へ変化してしまうのです。聖女とは、その瘴気を浄化し、再び清浄な魂へと導く役割を持った存在なのですわ」


 話を聞く限り、聖女がこの世界において、とても重要な存在であることは理解できた。しかし、そんな大切な者を他の世界から引っ張ってくるというのは、とても割に合いそうにない。天児がその疑問を投げ掛けると、マリアロイゼはまた溜息を吐いて頭を振ってから言った。


「仰る通りですわ。そもそも、聖女というものは一定の周期で新しく生まれてくるものですの。ですから、本来は別の世界から召喚する必要などないのです。聖女召喚というのは、過去に大きな災害が起きた時、例外的に行われた…云わば苦肉の策だったのですわ」


「なるほど。じゃあ、今は何か特別な問題が起きているんですか?その、大きな災害が起こったとか…」


「いいえ。私の知る限り、聖女が必要となるような問題は、なにも…」


「そんな…!?」


 それでは完全に呼ばれ損ではないかと、天児は頭を抱えるしかなかった。

 二人のはるか上空で、世界樹の葉が揺れる音がして、何故かやけに煩く感じた。

お読みいただきありがとうございました。

もし「面白い」「気に入った」「続きが読みたい」などありましたら

下記の★マークから、評価並びに感想など頂けますと幸いです。

宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ